第17話 クライアントへの報告
次の日、上井は早希とともに、クライアントである柵木祐美子の家を訪ねた。
「祐美子さん。ここ2週間の調査報告書です。ご覧ください」
上井は調査結果をまとめたファイルを彼女に手渡した。
柵木祐美子はすぐにファイルを開き、目を通し始めた。
「結論から申しますと、この2週間、誠吾さんに問題になるような行動は一切見受けられませんでした。浮気している様子もありません」
「悪い人に脅されているようなこともなかったですか?」
「はい。誠吾さんの悩みは、おそらく会社の情報漏洩問題だと我々は考えています。柵木ビルのテナントのうち、この2年で15社倒産したのですが、そのほとんどが会社の内部情報を抜かれて倒産した可能性があるんです。まだ確たる証拠はないのですが、我々は誠吾さんがそのことに気づいたのではと見ています」
「そうなんですか? それなら夫の元気がないのも分かります」
「それよりも、裕美子さん。実は誠吾さんよりも息子の重則さんの方に問題があります。こちらをご覧ください」
上井はカバンから別のファイルを取り出し、彼女に見せた。そこには柵木重則が闇カジノでディーラーをしている時の写真が貼り付けてあった。
「これは?」
「重則さんで間違いないですよね?」
「はい」
「彼は今、闇カジノでディーラーをしています」
「えっ」
柵木祐美子は驚いて、そこから先、言葉が出て来なかった。
上井は話を続けた。
「重則さんのことは、調査の途中で分かりました。今日ここに来たのは、中間報告をすることに加え、重則さんのことを今後どうするか、裕美子さんから話を聞きたかったからなんです。どうしますか?」
「重則を何としてもここから引き離してください。よろしくお願いします」
柵木裕美子は、すぐに返事をした。
「分かりました」
「ですが、このことは夫には黙っていてください。これ以上、心配事を増やしたくないので。時期を見て、私から伝えます」
「はい。そのように取り計います」
上井の言葉を聞くと、柵木祐美子はぐったりとソファーの背に体を預けた。
かなりショックを受けているようだった。
「祐美子さん、大丈夫ですか? お水持ってきましょうか?」
早希が声をかけた。
「大丈夫です。ただ、なぜ重則が闇カジノなんかで働いているのか? それがショックで」
柵木祐美子は手で顔を覆いながら言った。
「現実を受けいれられていないんです。これは重則さんの仲間から聞いた話なのですが、彼は野球が出来なくなったのは運命なのかどうか見極めるため、闇カジノに行っているそうなんです。そこで勝っている人間と負けている人間を見て、それが必然なのかどうか観察して、自分を納得させようとしているんです」
早希の後に、上井も言葉を続けた。
「祐美子さん。重則さんは今時とても珍しい純粋で真面目な子です。ただ、あまりに純粋で真面目すぎるがゆえ、今回のような行動を取ってしまったんです。ですから、息子さんのことで、ご自身のことをそんなに責めないでください」
二人の言葉を聞いて、柵木祐美子は少し体を起こし、口を開いた。
「ありがとうございます。重則のこと、よろしくお願いします」
「はい。すぐに手配します」
上井は慰めるようなやさしい口調で彼女に言葉を返した。
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