第16話 招かれざる客 その2

「容疑はなんですか?」


日沖が友枝にたずねた。


「刑法185条、賭博及び富くじに関する罪です。上井さん、あなたは先日、闇カジノに入り、バカラをしていましたよね?」


「はい。その通りです」


「随分潔いんですね」


「ええ。むしろ光栄な事だと思っています」


「光栄? なぜです?」


「裁判になったら、吉原さんの見事な潜入捜査の手法を、多くの方に知ってもらえるからです」


「何?」


吉原が声を上げた。


「吉原さんの潜入捜査は、警察官とは全く感じさせない見事なものでした。あれは今後潜入捜査をすることになる警察官および探偵の人たちに、ぜひ知ってもらわなければならないものです。裁判中、画像付きで出しても、問題ないですよね? あっ、でも日本の警察は情報収集する際、身分を明かすことになっていましたっけ?」


「基本的には、だ。ダメとは言っていない」


吉原が顔を曇らせながら言った。


「すいません。上井は違法手段で集めた証拠が裁判で認められないことを知っていたので、つい皆さんの前で大きく出てしまったんです。社長の私から謝らせていただきます。大変申し訳ございませんでした」


日沖が会話に入ってきた。劇団日沖の即興劇が開幕した。


「上井君」


「はい」


「悪いことをしたんだから、罰せられるのは当然です。しっかりお勤めを果たして来なさい」


日沖が諭すように言った。


「分かりました」


「でも、心配しないでください。私もすぐにそっちへ行きますから。あなただけに寂しい思いはさせませんからね」


「えっ、では派手に立ち回るんですか? あんなに静かに仕事を進めようって言ってたじゃないですか」


「あなたがいなくなったんですから、仕方ありません」


「そうですか。残念です」


「チッ」


二人の三文芝居を見ていた吉原が舌打ちをした。


「分かりました。では、潜入中、無茶なことをしなければ、互いに関知しないということでどうでしょうか?」


友枝が妥協案を出して来た。


「そういうことでしたら、我々も了承いたします」


日沖はすぐに返事をした。


「では、現場であっても、お互い今まで通りということで」


「分かりました」


「それでは我々はこれで失礼いたします。本日は時間を取っていただきありがとうございました」


そう言って、友枝はソファーから腰を上げた。吉原もそれに続いた。


「いえいえ。こちらこそ、何かあった時はよろしくお願いします」


日沖も立ち上がって丁寧な口調で言葉を返した。上井も日沖に合わせて腰を上げた。


「では。失礼します」


友枝と吉原はすぐに事務所を出て行った。


「あの感じだと突入まであまり時間は残ってないな」


日沖が口を開いた。


「俺もそう感じました」


「裕一郎。明日、必ずクライアントから柵木重則を救う許可を貰ってこい。じゃないと手遅れになるかもしれん」


「分かりました。応接室を片付けた後、すぐに準備を整えます」


日沖にそう返事をすると、上井は応接室のコーヒーカップを下げるため、お盆を取りに作業部屋へ戻った。


「早希」


上井は、先程、応接室にコーヒーを運んで来た早希に話しかけた。


「何?」


「あの二人、どんな風に感じた?」


「ねちっこい」


早希が顔を曇らせながら言った。


「嫌だね」


上井の口から素直な感想が出た。

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