第15話 招かれざる客 その1
明日、再びクライアントの柵木祐美子と会う約束をした上井は、事務所にて彼女に見せる資料をまとめていた。
「冨田、資料はこれで全部か?」
上井は、隣に座っている冨田に話しかけた。
「はい。それで全部です」
「そうか。じゃあ、この2週間、柵木を尾行しても何も出なかったんだな」
「はい。浮気を疑うような行動も、あやしい交友関係も一切見受けられませんでした」
「分かった。ご苦労さん」
改めて冨田の労をねぎらい、上井は再び受け取った資料をまとめ始めた。
資料のまとめが終盤に差し掛かかり、もうひと頑張りしようと思っていた丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。
「俺、でます」
冨田が立ち上がり、玄関に向かって歩いて行った。そして、すぐにこちらに戻って来て口を開いた。
「社長。警察の方が来ています。生活安全課の人たちで、社長と上井さんに話があるそうです。どうしますか?」
「すぐに応接室にお通ししなさい」
「分かりました」
「裕一郎、お前もだぞ」
「はい」
日沖に言われ、上井は重い腰を上げて応接室の方へ移動した。
事務所にやって来た警察官は、中肉中背のメガネをかけた中年男性と闇カジノで会った永吉だった。
上井はすぐに状況を理解した。
「初めまして。警視庁生活安全部保安課の友枝典史(ともえだ のりふみ)と申します。こちらは部下の吉原(よしわら)です。今日は突然の訪問にもかかわらず、時間をとっていただきありがとうございます」
メガネの男はそう言って、名刺を差し出した。
「こちらこそ、初めまして。ここの社長をしております日沖政仁です。こちらは部下の上井です」
日沖も名刺を出した。
四人はそこで名刺交換を行った。
「お久しぶりですね、下条さん」
名刺を交換する時、永吉と名乗っていた男が上井に話しかけて来た。
名刺には警視庁生活安全部保安課保安第1係 吉原哲(よしわら さとし)と書かれていた。
「ええ。そうですね。吉原さん、永吉という名前は警察官という身分を離れて遊ぶ時の匿名だったんですね。今度、風俗街で会った時は永吉さんと呼ばせていただきます」
「何?」
吉原の語尾が上がった。
洒落が通じたのは、演技だったからか。
「まあ、とりあえず座って話をしましょう」
日沖が二人の間に割って入った。
四人はとりあえず応接室のイスに腰掛けた。
すぐに早希がやって来て、四人の前にコーヒーを置き、下がって行った。
日沖は早希が応接室から出て行くのを見届けてから口を開いた。
「それで、今日ここに来られたのは、どのような用件でしょうか?」
「単刀直入に申します。潜入調査を止めていただけませんか?」
友枝が柔らかい物腰ではっきりと言ってきた。
上井が予想した通りだった。彼らは闇カジノで情報収集していた。
「お断りいたします。こちらも仕事なので手を引くわけには参りませんので」
日沖はすぐに返事をした。
「そうですか。では、我々は捜査上の脅威を取り除くため、上井さんを逮捕しなければいけなくなりますが、それでもよろしいですか?」
何のためらいも感じさせない、友枝の言葉だった。
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