第14話 疑惑
月曜日の午前中、柵木ビル管理事務所の社長、柵木誠吾は、社長室でメールのチェックをしていた。
「失礼します」
ノック音の後、会計主任の道本青児が入ってきた。
「社長。この2年間で倒産した企業15社の分析が終わりました」
「分かりました。早速見せてください」
柵木は道本からタブレット端末を受け取り、画面を見た。
そこには、倒産したテナント15社の名前と倒産した理由、そして売り上げ推移が書かれていた。
「概要を説明して、よろしいでしょうか?」
「お願いします」
「倒産した15社の内、10社は情報漏洩による不祥事が原因です。残り5社は、会社の技術が他社に抜かれたことで売上高が減少したからです。詳しい説明は、後半、個別にまとめてあります」
「分かりました。ところで、道本主任。情報漏洩とはどのような内容ですか?」
「製品のリコール情報や上司の犯罪すれすれの指示メール、こっそり集めていた個人情報などです」
「では、倒産した企業15社全て、会社の内部情報を何者かに抜き取られて、潰れた可能性もあるんですね」
「えっ……まあ、そうですね。その可能性はあります。もちろん証明はできませんが」
「分かりました。ご苦労様です。あとはこちらで見ておきます」
「はい。では、失礼いたします」
「あっ、道本主任」
「何でしょうか?」
「ここを出たら、すぐに鍛治田部長に社長室へ来るよう伝えてください」
「分かりました。失礼します」
道本は社長室を出て行った。
柵木は総務部長の鍛治田益生が来るまでの間、タブレット端末を見ながら気になっていることを調べ始めた。
「失礼します」
ほどなくして、鍛治田が社長室にやって来た。
「お疲れ様です、鍛治田部長。頼んでおいた登野城との件、どうなりましたか?」
「はい。無事、話がまとまりました。今、必要書類を揃えています」
「そうですか」
柵木はそこで言葉を止めた。
「何か問題でも、ございましたか?」
鍛治田が聞いてきた。
「鍛治田部長。この2年間で15のテナント企業が倒産しました。そのうちの10社が情報漏洩による倒産で、残り5社がライバル社に技術面で抜かれたことによる倒産です。そして、倒産した15社のうち、12社が登野城警備保障との契約があった企業です。割合からいって、多すぎると思いませんか?」
「おっしゃりたい意図が分からないのですが……」
「登野城はフロント企業ではありませんか?」
「いえいえ。私が知る限り、そんなことはございません。登野城はIT化と固定費の削減で大きくなった新興企業です。うち以外にも、大手が登野城と契約しております」
鍛治田すぐに反論した。
「大手も契約しているからと言って、それが登野城の潔白を証明する理由にはなりません。鍛治田部長、登野城には何か裏がないか調べてください。何もなかったらそれでいいですが、問題が見つかったら、その時、改めて対処しましょう」
「分かりました」
「では、早速取り掛かってください」
「はい。失礼します」
鍛治田はすぐに社長室を出て行った。
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