第13話 潜入 その3
闇カジノを出た上井は、尾行がいないか確認しながら事務所へ戻った。
中に入ると、社長の日沖と先に戻っていた冨田が上井を出迎えてくれた。
「戻りました」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
冨田と日沖が、すぐに上井の労を労った。
「冨田、外の様子はどうだった?」
席に座りながら、上井が質問した。
冨田は上井が潜入中、万が一に備えて外から見張っていた。
「ビルの周りに浮浪者と思われる人たちが数人いましたが、特におかしな様子はありませんでした」
「そうか。ご苦労さん」
「いえ」
当然の仕事ですと言わんばかりの表情を浮かべながら、冨田が答えた。
「ご苦労だったな、裕一郎。どうだった、闇カジノは?」
斜め向かえに座っている日沖が話しかけてきた。
「拍子抜けしました。スーツを着たサラリーマンみたいな人がほとんどで」
上井は盗撮用メガネをノートパソコンに繋げながら言った。
「怖いお兄さん達で溢れていると思っていたのか?」
「まあ、多少」
「カタギから取るというのが、今の光塚組の方針なんだろう。柵木重則は中にいたのか?」
「はい。バカラのテーブルでディーラーを務めていました。俺が運を感じられると話したら、すぐに話に入って来ました。あの様子だと、かなり真剣に決定論について考えていますね」
「そうか」
「そっちは何か分かりましたか?」
「倒産した柵木ビルのテナント企業を調べていて、面白いことがわかったぞ。潰れた企業のほとんどが何らかの情報漏洩で潰れている」
「情報漏洩って、顧客情報とかですか?」
「ああ。顧客情報に、社内の極秘情報。他にもライバル会社に技術を盗られたと思われる例まである」
「証拠はあるのですか?」
「ない。だが、この2年間で倒産したテナント企業のほとんどが、情報漏洩をきっかけにして倒産している。倒産理由としては珍しいものではないが、割合的に数が多すぎるだろう?」
「確かに」
「もしかしたら、柵木誠吾は、確証はないがそのことに気が付いたのかもな」
「分かりました。その辺も考慮しながら動きます。あと、柵木重則の件ですが、クライアントの柵木祐美子に息子のことを伝えてもいいですか? 証拠も撮れたんで」
上井はノートパソコンに、今、撮ってきた柵木重則の画像を出し、日沖に見せた。
「ああ。きちんと伝えてやれ」
「分かりました」
日沖に言われ、上井は早速、画像の編集を始めた。
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