第11話 潜入 その1

上井はモンクレールの服に盗撮用のカメラが付いたメガネをかけて、錦糸町の雑居ビル5階にある闇カジノへ向かった。


入り口にあるインターフォンを押し、日沖から渡されたコインをカメラの前にかざすと、ドアの内側から金属音が聞こえた。


すぐにドアが開き、黒い制服を着た男性が上井を迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。どうぞ中へ」


促されるまま中に入り、防音扉を開けると、そこには100平方メートルくらいの晴れやかな空間が広がっていた。


上井はゆっくり歩きながら、中の様子を観察した。


客の人数は男女合わせて20人くらいで、うち四分の三が男性だった。


客層は身なりのいい中年の男女がほとんどで、男性の多くはスーツを着用していた。


テーブルは全部で7つあり、それぞれブラックジャックにポーカー、ルーレットにバカラなど様々な遊戯が行われている。


部屋の奥にはカウンターバーがあり、そこでお酒を注文し、飲みながらギャンブルを楽しむことも出来た。


ターゲットである柵木重則は、バカラのテーブルにいた。


上井は彼と接触するため、バカラのテーブルに向かって歩いて行った。


「おいおい、まじかよ」


柵木重則の前に座っていた色白のメガネをかけた男が声を上げた。


テーブルの上のトランプは、互いに配られた札の合計数が同じになるタイになっていた。


確か出る確率は10%以下だったはずだ。


「いいねえ、俺の風がきている」


隣に座っていた小太りの中年男性が、にこやかな表情を作りながら言った。


「永吉(ながよし)さん、どうしてこのタイミングでまた当てられるんですか? さっき出たばかりですよ」


メガネの男は、永吉というその小太りの男に質問した。


「確率じゃなく、運の流れを感じればいいんだよ」


永吉は、チップを受け取りながら答えた。


「本当にあるんですか? そんなもの」


メガネの男は、釈然としない表情を浮かべながら言った。


「ある」


永吉は即座に断言した。


「いらっしゃいませ。お客様、参加いたしませんか?」


テーブルのすぐ近くに立っていた上井に、柵木重則が声をかけて来た。


「ここのルールは?」


「タイは8倍、ペアは11倍のノーコミッションバカラです」


バカラとは、カードをプレイヤーとバンカー、二組に分けて2枚ずつ配り、そのカードの合計下一桁が9に近い方を勝ちとするゲームである。

合計数が小さい時は、もう一枚カードが追加され、10と絵札は「0」として計算する。

勝った時は賭け金の倍の額が手に入り、プレイヤーとバンカーの合計が同じなった場合のタイや、配られたカードにゾロ目が出た場合のペアが出た時は、出る確率が低いので、より高い配当を受け取れる仕組みになっている。

ゲームに参加するには委託手数料、コミッションが必要であり、ノーコミッションバカラはコミッションがない代わりに、バンカーに賭けて「6」で勝ったら、払い戻しが半分の1・5倍になるルールのことである。


「チップは1枚5000円になります。いかがですか?」


「オーケー。10万円分もらおう」


「ありがとうございます」


上井は柵木重則の隣にいた細身の中年男性に現金を渡し、席についた。


そして、彼からチップを受け取ると、早速プレイヤーの方にチップを2枚かけた。


「ほう、プレイヤーに賭けますか」


右隣にいた永吉が話しかけてきた。


「そう感じたんで」


上井は自信を持って答えた。


「では、私もあなたの流れに乗っからせてください」


永吉もプレイヤーの方に8枚かけた。


「俺も」


永吉に続いて、メガネの男もプレイヤーにかけた。


全員かけ終わったのを見て、柵木重則はカードシューからカードを配った。


プレイヤーの合計は7。バンカーの合計は6だった。


「お見事」


永吉が上井を称賛した。

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