第8話 夜の訪問者 その1

素行調査を始めてから、3日たった。


上井たちは朝から柵木誠吾を尾行し、彼の交友関係や行動を調査したが、特に問題になるようなものは発見できなかった。


「柵木社長って、まだ若いのに遊んでいる様子が全くないですね」


車の後部座席に座っている冨田が口を開いた。


時刻は21時。上井たちは柵木家の門が見える所に車を停め、外から中の様子をうかがっていた。


「ああ。そうだな」


上井も冨田と同意見だった。


「私、あの石間っていう秘書は、絶対愛人だと思ったんだけどな」


助手席に座っている早希が、不満そうに口を開いた。


「それ、早希さんの願望でしょ」


冨田がすぐにツッコミを入れた。


「いや、いや。早希のカンは結構当たるんだぞ?」


「さすが、上井さん。私のこと分かってる」


「じゃあ、早希。あの門の前にいる女性はどうだ?」


上井は柵木家の前を行き来している20歳前後の女性を軽く指差しながら言った。


「あれは……残念ながら愛人の匂いはしないわね」


「だけど、柵木家に用があるのは間違いないよな?」


「そうね」


「早希。彼女からちょっと話を聞いて来てくれないか?」


「喜んで」


早希はマイクとイヤホンを付けて、すぐに車を降りた。




家の前にいたその若い女性は、早希がすぐ側まで来てもまだ気づかずにいた。


「すいません。何か御用ですか?」


早希は彼女に声をかけた。


「えっ。あっ、いや」


突然話しかけられ、彼女はしどろもどろになった。


その時、早希は彼女のカバンに野球のバットの形をしたキーホールダーが付いているのを発見した。


「ひょっとして、重則さんのお友達ですか? 私、この家でお手伝いをしている、速水です」


早希は偽名と嘘の身分を使って自己紹介した。


「あっ、私、大東海大学で野球部マネのージャーをしております、谷本優佳(たにもと ゆうか)です」


そう言って、彼女は少し慌てた様子で頭を下げた。


「重則さんは、現在ひとり暮らしをなさっておりますので、こちらにはおられません。それとも、ご家族の方に御用ですか?」


「はい。その重則君のことで、ちょっとお伝えしたいことが……」


谷本優佳はとても話し辛そうな雰囲気だった。


「ご両親に直接お伝え難いことでしたら、私が代わりにお聞きして、お二人にお話しましょうか?」


「本当ですか?」


「ええ。ですが、ここで話を聞くのも何ですから、場所を移しましょう。近くにいいカフェがあるんです」


「ええ。ぜひ」


早希は谷本優佳を連れて、ミドルウェアに向かった。

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