第6話 調査開始

次の日の朝、上井と富田と早希は、柵木家の門が見える所に車を停め、柵木誠吾が中から出てくるのを待っていた。


「作戦をもう一度確認するぞ。柵木誠吾が車で出てきたら、まず早希が柵木に話しかけて車を停める。その隙に冨田が後ろから近づいて車にGPS発信機を取り付ける。いいな」


「了解」

「りょうかーい」


冨田と早希は、それぞれ上井に返事をした。


「そろそろ時間だ。柵木誠吾の車は右ハンドルのアストンマーティンだから、近づく方向を間違うなよ。よし、行ってこい」


上井に促され二人は車を降りた。




早希が車を降り程なくして、青のアストンマーティンが家の門から出てきた。


ウインドウガラス越しに、柵木誠吾がハンドルを握っている姿が見えたので、早希は大通りに出る少し手前の所で車の前に立ち、柵木の車を停車させた。


「すいません。ちょっと聞いてもいいですか?」


サイドウインドウが下がるやいなや、早希は運転席に近づき、柵木に声をかけた。


「はい。何でしょうか?」


「ミドルウェアという名前のカフェを探しているんですけど、ご存知ないですか?」


「ああ。その店でしたら、この道ではなく、隣の道ですよ」


柵木が運転席の窓から腕を出して東側を指した。


「ええ、そうなんですか? スマートフォンで地図を見たら、ここだと思ったんですけど」


「この辺はちょっと道が入り組んでるんで、見間違っても仕方ないですよ」


柵木は笑顔で言葉を返してくれた。この人、いい人だ。


「すいません。教えてくださりありがとうございます」


そう言いながら、早希はさりげなく後ろにいる冨田の様子をうかがった。


だが、冨田はまだGPSを取り付けるのに戸惑っていた。


「あの、そのカフェって、チーズケーキが美味しいって聞いたんですけど、本当ですか?」


早希は時間を稼ぐため、会話を繋げた。


「ええ。チーズケーキも美味しいですけど、実はアップルタルトが一番美味しいんです。店長が使うリンゴにすごくこだわっているので」


「そうなんですか? じゃあ、そちらを注文することにします。ちなみに、お勧めの飲み物はありますか?」


「甘いものを食べるのなら、アールグレイの紅茶を選んでください。ピッタリあいますから」


「分かりました。ありがとうございます」


早希は再び後ろにいる冨田の様子をうかがった。彼は丁度、車から離れた所だった。


「すいません。朝のお忙しい中、時間を取らせてしまって。教えてくださり、ありがとうございました」


早希は丁寧に柵木にお礼を言った。


「どう致しまして。ぜひ、あの店のこだわりの味を楽しんでください。それでは私はこれで失礼します」


柵木は車のサイドウインドウを閉めて、再び車を発進させた。早希は柵木の車が見えなくなったのを確認してから、上井たちのいる車に戻った。


「遅い」


車に乗ると、早希はすぐに冨田へ文句を言った。


「すいません。付ける場所にちょっと戸惑ってしまって」


冨田が申し訳なさそうに言った。


「早希。柵木誠吾と直接話してみて、どんな印象を持った?」


上井が聞いて来た。


「いい男ね。丁寧いでやさしいし。いい印象しか持たなかったわ」


「じゃあ、若い愛人が一人や二人、いてもおかしくはないか?」


「ええ。あれは絶対若い子にもモテるわよ」


「了解。それじゃあ、そろそろ柵木を追いかけるか」


上井はエンジンをかけ、車を発進させた。

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