第12話「過去との別れ2」


 大学に着くと、校内は閑散としていた。


 ほとんどの学生はオンライン授業に切り替わり、実際に大学内に足を運んでいるのは大学院の学生や研究員、職員くらいで人通りもかなり少ない。


「……さて、どうしたものか」


 今日、大学に来た理由は二つ。


 一つは、学科の担任と面談をして資料をもらうため。


 そして、もう一つは佐藤鏡花しつれんあいてに決着をつけるため。


 何回も言っているが、決着自体はうの昔についている。


 それでも何かを言いたがっているのはあのそっけない返事が辛かった——なんていうちゃちな理由だけだ。


 高校一年生で一目惚れして、近くにいる可愛い幼馴染に思いを向けなかった藤崎が思いを寄せていた相手。


 それが、佐藤鏡花さとうきょうかという女性だ。


 容姿端麗、頭脳明晰。


 サッカー部のマネージャーを務めながら、実は自分もプレーができるという神スキル。リフティングも500回くらいなら余裕らしく、危うく自分のポジションを取られそうになったことすらある。高校サッカーから男女で分かれることがなければ、むしろ確実に取られていた。


 ただ、そんな完璧に近い彼女に惚れてしまったわけで。

 人間、不思議なものでライバルに好意を抱くことは多い。当時の彼も実はその一人だった。



『ほら、頑張ってよ!』

『んな……うまいくせに。なんで、プレーしてないんだよ……』

『うーん、気まぐれかな? だってさ、マネージャーって可愛いじゃん!』

『なんだその理由……舐めてるのか?』

『もっちろん! てか当たり前じゃん、下手くそ~~‼‼』

『クソぉ‼‼ 何も言えねえ‼‼』


 へらへらと笑うその顔とはとても可愛かった。

 学年一の美少女、その名が確実に似合っている。そこら辺のモデルやアイドルとはレベルが違うほどに綺麗で、宝石の様だった。


『いやぁ、軸裏ターンもできない人間に言う権利ないわぁ~~』

『こちとら、シザースとダブルタッチがあるっ』

『メッシじゃあるまいし、そんなの効かないよ~~』

『んだとっ——、じゃあいいさ、やってやろうじゃないのぉぉ⁉』


 そうして、始まった。

 PVP。 1on1。 

 つまりはまあ、1対1だ。

 片方がディフェンスに徹して、もう片方がオフェンスに徹する。どのスポーツでもある基本的な練習方法だ。


『よぉ~~、隼人いけぇ!』

『鏡花ちゃぁぁん! 頑張れぇぇ~~‼‼』

『隼人も頑張れーー』

『いけぇ‼‼』

『みんなの鏡花ちゃん泣かせたら怒るぞぉぉっ‼‼』

『藤崎、ぶったおせ!』

『ぶったおせぇ~~‼』

『隼人ぉ、ぶぅううう‼‼』

『あっついプレーで、俺たちを揺らせっ、もぉ焦らさないで~~我慢できない~~♪』 

『愛してるぜ、WE ARE 鏡花ぁ‼‼ 思いこめて歌うのさっ~~‼‼』 


『どうしてこうなった……?』

『ははは……私も分からん。まあ、いいじゃん、みんな見てるの案外練習になるでしょっ』


 隅の方でこじんまりと始めようと思ったのに、一人にバレて、さらに一人にバレて、そこから伝染していつの間にか二十人、サッカー部員以外の二十人も集まって、ギャラリーが藤崎と佐藤の二人を取り囲んでいた。


 他の女子マネが応援する声や、後輩や同期が熱いエールを送っている。所々で佐藤のファンがブーイングを送っているが緊張で藤崎自身聞こえていない。日本のサッカーチームのチャント(応援歌)を歌いだす人もいて、なにかのイベントみたいになっている。おかげでグラウンドの外側からも小中学生が見守ってまでいて、緊張どころの話ではない。


『まじかよ……勘弁してくれ……』

『ははっ、なんか懐かしいねっ、中体連みたい』

『佐藤は強豪校出身だもんな、確か』


 ジト目で、ニコニコと士気を高めている佐藤に視線を送る藤崎。心臓の鼓動がバクバクしていて、胸が風船のようになって見えるのは気のせいかどうか。もしかしたら、木の精かもしれない。


『うーーん、まあ札幌内ではかな?』

『多谷とかのほう?』

『いーや、私立ではない』

『それなら、あれか……クラブチームか』

『そーね、そんな感じ』

『くそぉ、こちとら弱小絞出身て言うのに……』

『あらぁ、ここで怖じ気づいてもいいのよぉ⁇』


 口角が上がり、ニチャァと煽り顔すら見せている。余裕が過ぎて、むしろ藤崎に勝ち目はない。女子は女子と言っても、相手は化け物級だ。去年の高校一年のシャトルランでは女子でぶっちぎりの一二〇回。幼馴染の御坂だって運動はできる方だが、頑張ってもせいぜい九〇回が限度だ。そうなるとお化けだ。陸上やっとけ。


『っく、いいさ! やってやろうじゃないのぉ‼‼』

『へへっ、来なよへぼへぼ野郎‼‼』



 なんていう少年漫画ちっくな思い出が何個かあるくらいには二人は仲も良かった。そして、いつしか惚れていて、思いを中々伝えられなくて来たる卒業式。思いを告げたら一言。


『私、他に好きな人がいるんだ』


 まさかのまさか。

 一発、即答でフラれて、あんなに馬鹿にしている彼女が馬鹿にすらせず、悲しい顔で藤崎の元を去っていく。


 ——そんな姿がどうしても我慢できない。許せない。せめて、笑顔で馬鹿にしてほしい。そんなぎくしゃくとした心境が藤崎の中で揺れていて、ここまで来たのだ。


「……はぁ、今更ビビってるのかね、俺はっ」


 嘘ではない。

 ビビっている。

 怖いし、緊張があの時と同じくらい大きかった。


 しかし、そんな落ち着かない藤崎の元に彼が現れた。


「あ……前の」


 ビクッと揺れて、声がする方に振り向くと。


「え」


「前の、あの……鏡花の……」


「あ、か、彼氏さんだ」


 思わず口に出た言葉。

 慌てて口に手を当てるが時すでに遅し。

 そこにいたのは、前回大学で佐藤に会ったときに隣にいた金髪でジャラジャラした格好していた男だった。


「か、彼氏?」


「え、はい……」


「違う違う、俺が鏡花の彼氏なわけないじゃん……っ」


「え?」


「もしかして、俺があいつと付き合ってると思ったの? あはははっ、それはまあ、すごいなっ……くくっ」


 あっけらかんとした顔をする藤崎を横目で、クスクスと笑うその男。若干腹がったが今の藤崎からは正直何かを言えるはずもない。


「違うよ、俺はあいつの兄貴だ……分かってる?」


「あ、あにき……お兄さん?」


「そう! 俺は佐藤誠也さとうせいや、よろしく!」


 目を見開く藤崎、次に聞こえたのは——


「ええええええええ⁉」


 自分自身の驚嘆声だった。




<あとがき>


 こんにちは、歩直です。

 きたきたゴールデンウィーク! 訳してゴルシうぃーーく、じゃなくて——GWはいかがお過ごしでしょうか? 今日明日は色々予定が入っているのですが、皆さまコロナ化の中おうちで時間って感じですかね? まあ、そんな暇な時間を僕の小説で埋めてもらえるのは非常にありがたいことです!!


 いつもコメントや応援ありがとうございます‼ 自分、国語のセンター試験5割少ししか取れなかった理系ですので、拙いところはどうにかお見逃しを!笑笑


 良ければ、星評価もお願いします! ではまた!


 PS:僕のリフティング最高回数は中学時代の581回です。

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