第13話「兄妹そろってギャップ萌え」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」
大学敷地内にて、藤崎の驚嘆声が響き渡る。
まるでやまびこの様に撥ねて、揺れて、交差して、外を歩いていた職員の方々が目を見開いてこちらを見つめていた。
「っ——、と、す、すみませんっ」
「び、びっくりした……頼むよ、藤崎君……」
「あ、あははは……少し驚いてしまったもので……」
頬が赤くなる。体温が上がっていくの感じた。先ほどまでの緊張がどっかに逃げていき、この瞬間の羞恥がどんどんと増大していく。そんな藤崎を苦笑いで見つめる佐藤誠也。いやしかし、まさかのまさかではあったがお兄さんだとは思わなかった。
「そんなにかなっ、一応これでも兄だけど?」
「い、いやいやそんなことは! 以前から兄がいるのは知ってはいたのですが同じ大学にいると思わなくて……というかまぁ」
「というかまあ?」
「あ、いえ何でもないです」
こんなチャラいとは思いませんでした――なんて言えるわけもない。口が裂けても言えない。というか、この見た目じゃ、言ったら殺されそうだし……。
「——ほんとに?」
「まあ、はい……」
「すっごく嘘っぽいな?」
「いや、本気です!」
「なら、いいんだけど……」
それにしても、この見た目からこの感じというか雰囲気と言うかまったく、兄妹そろってギャップが凄い。金髪して、ピアスまで開けてジャラジャラしたヤンキーチックな見た目なのに性格特徴も穏やかそうで少しだけ安心した。
逆に佐藤……というか、お兄さんも佐藤さんか、まあでも佐藤は佐藤だし、いいか。それに、佐藤も佐藤であの麗しい見た目なのに元気で煽りスキルも高くて、運動神経抜群で……もはや俺すら1対1で負けさせられることが出来るような女だ。もはや、お兄さんの比ではないかも知れない。
最近のヤンキーは比較的穏やかだっていう話も小耳にはさんだこともあるし、お兄さんはそういう類いなのだろう。
まあ、大学にヤンキーなんていないんだけど。
「……それで、君はって名前何だっけ?」
「あ、えっと、藤崎です。藤崎隼人って言います」
「隼人くん……ほぉ、何か聞いたことあるな」
「え、まじすか? 知ってるんですか?」
唐突のカミングアウトに驚いた藤崎、真面目に先ほどまでの緊張がどこかに行ってかなり食い気味に問いただす。
「あ、うん……一応鏡花から聞いてはいたかな? ちょくちょく話聞いてたしね」
「まじすかっ……」
少しだけ、頬が朱に染まった。
あんなに馬鹿にしていた佐藤でも自分にそんな気持ちを向けていたと思うと多少は嬉しくなる。いや、恋をしていて、たとえもうフラれた相手でも普通に嬉しい。これから重要なことを言いに行くって言うのに、こんな話で顔を赤くしていたら何もできない。
「まじまじ、あいつ結構話してたよ」
「んぐ……そ、そっすかぁ、ははっ」
さすがに苦しい。
寂しそうな顔で藤崎を振ったシーンが浮かんだが、まるで夢にすら思える。彼女がまさか自分をネタにして、お兄さんと話をしていたのは少し不思議だ。
「あ、そうだっ、それでどうしたの? 今日もオンラインだったはずだけど……?」
「えっと、その、学科の担任と面談があるのとその——」
言葉が詰まる。
果たしてこの話は佐藤のお兄さんに言うべき事柄なのか、若干の不安が藤崎の頭を過ぎる。
「その?」
「え、っとぉ、ああ……」
「ああ、別に言いたくないなら……いいんだけど」
「いや、別にそんなことはないです‼‼ すこしだけ、言いづらいっていうか……緊張しちゃうっていうか」
首を傾げるお兄さん。
ジャラりと金色のネックレスが音を上げて、ちょうど吹いた微風にたぼたぼなTシャツが揺れる。ふわりと風に乗った香水の香りが鼻腔を刺激させる。
「……その、妹さん。鏡花さんに告白したんですよ」
「え? 今日するの??」
「するわけないじゃないですか、てかしませんよ‼‼」
ぱちりと目を輝かせるお兄さん、お年ごろなのかは知らないが滅茶滅茶に食いついてきている。妹の恋路がそこまで気になるのかと疑問を持つほどにだ。
「そ、そんなに否定しなくても……」
「あ、いやっ、そういうわけじゃないです!」
「?」
「告白は——もう、したんですよ」
目を輝かせるお兄さんの表情は、突如として暗くなった。
「それで結果は?」
「フラれました。もう、玉砕でしたね……」
「あ、あぁ……それは、その……どうも」
すると、余りの雰囲気に何も返せなくておろおろとするお兄さん。この格好からのその顔は中々にギャップ萌え出来る破壊力だが、正直その表情の変化を見るのも辛い。こいつ、俺の心を笑ってやがる。イケメンでずるいぞ、まったく。
「——どうもってなんすか?」
「……いやっ、そのっ別に……っく」
しかもこいつ、俺のこと今笑ったぞ‼‼ クスって、クスって言ったよな‼‼ 今な‼‼ ひどくねえか、おい‼‼
「笑いましたよね?」
「いや、笑って——っくく、ないです」
「笑ってるじゃないすか……」
「いいや、別にっ——!」
「おい」
「すまんすまん、いやぁ……すまんっ」
「はぁ……もういいですよ、どうせフラれたんですし」
俯く藤崎、さすがにここまでクスクスと笑われたら落ち込む気も失せる。それに、こうやっていじってくるのも佐藤に似ていて少し落ち着く気もする。
やっぱり、Mになりたくないし、認めるのやめる。絶対Mじゃないし。
「……はははっ、いやぁ、だってね……まさか鏡花にそんな思いを抱く人がいるのかって驚いちゃってね、ごめんごめん!」
「そうですか……でも、驚くも何もあれですけどね、学年で一番人気でしたけどね」
「え、まじで⁉」
すると、笑っていた顔が一瞬で驚愕する。
そこまで驚くほどではないと藤崎的には思うのだが、やはり兄妹はそうやって思うのかもしれない。藤崎が幼馴染の御坂に好意をあまり抱かなかったように、むしろ兄妹ならなおさら可愛いとは思わないのだろう。
「まじですよ」
「そっか、まじか……そんなこと言われると照れるな……っていうか、俺も兄としての威厳を‼‼」
胸を張って空を見上げるお兄さん、ふざけているような、それでいて真剣な表情で言っていて正直何も言えなかった。
しかし、そんな二人の前に。
噂をすれば、風の如く、彼女は——現れたのだった。
「……なにしてるのよ、お兄ちゃん?」
「「⁉」」
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