第11話「過去との別れ」


 御坂がいるおかげで少しばかりは週末が楽しくなったが、土曜日には某ウイルスのせいで休校になった日の補習も入り、休めたかと言われればそうでもなかった。 


 そして、気がつけば。

 翌週になっていた。


「……ふぅ」


 靴の紐を結んで息を吐く藤崎に緊張が走る。


「何してるのよ……」


「——うわっ⁉ み、御坂か……び、っくりしたぁ……」


「んな、なんでそんなにびっくりしてるの……私も驚いちゃうじゃんっ」


「いやぁ、普通にビビった。すまん」


「いいよぉ————それでさ、心境はどんな感じ?」


 俯いた藤崎にストレートに訊く御坂。

 心境も何も普通だが、佐藤鏡花を前にすれば緊張は逃れられない気がしてならない。現にこの瞬間もドキドキしているし、当日にここまでドキドキするのは思ってもみなかったようだ。


 怖いと言うか、もはや動かないまである。


 過去との決別——まあ過去というほど昔でもないけど、この思いとは別れを告げなければならない。そんな重みも増して、藤崎の胸を締め付けていた。


「——緊張してる」


「へぇ、そう……耳かきしてあげたのに?」


「んぐっ――。それは、まぁそうだけど……」


「ふぅん……そっかぁ、効かなかったのかぁ……残念だなぁ~~」


 いやいや、またもや表情が怖い。

 なにこれ、新手のプレイか何かか? 学校行くだけだよな、別に何もしてないよな? いやまあ、失恋相手独りに未練たらたらじゃ——何もしてないことはないか……。でも、分かってほしい! 何より気になって仕方がないんだよ!! むしろ、同じ大学に居たら意識はするじゃんさ!!


「き、効いてはいるから……」


「から……なに?」


「そうはいってもきついもんはきつい――っというか……」


「——なぁに?」


「すんません、嘘です、行けます、と言うかさっさと終わらせてくるんでその目はやめてください‼‼」


「よろしいっ!」


「は、はい……」


 まじで怖い。

 碧眼へきがんから灼眼しゃくがん、もはやそれすら通り越して暗黒ダークマターを覗いているまである。


「……まぁでも、頑張ってきてよ? 応援してるんだから……」


「そ、それは……うん、ありがたいけど……」


「はぁい、それじゃあ頑張ってきて——よっ!」


「う、っおい。押すなって……」


「いいから、さっさと行って、さっさと終わらせる! 分かったかな?」


「わ、分かったよ——」


 そう言って、顔を隠しながら御坂は藤崎の背中を押して玄関から追い出した。



 ☆☆


「はぁ……私、何してるんだろ……」


 ほんと、こんなので嫉妬って大人げないんだなぁ。

 でも、さ。

 隼人も隼人だから、いいじゃんね。私だって女の子なんだよ、悔しいし、苦しいし、嫉妬するもんっ!


 ……でも、本当にがんばってよね。


「強くなって、頑張って……っ」


 御坂は玄関を背に、崩れていく。

 瞳からは大粒の涙が一滴だけ頬をつたって、誰もいない部屋に啜り声が響いたのだった。


 ★★



「まじで……緊張するなぁ」


 一方、大学まで信号を一つのところで藤崎の胸の鼓動は最高潮に達していた。ここから緩やかに下がってくれるのならいいのだが、二つ目の山が来そうな気がして藤崎自身も余計に緊張してしまう。


 因縁の相手、因縁というか――恋敵と言うか。


 確かに、一度振ったはずなのに再び何か言ってこられるのは彼女に身になってみるのとウザいにもほどがあるのは自分でも分かっている。ただ、どうしても譲れないことは誰にでもあるものだ。


 それに御坂と同じ屋根の下で住んでいる以上、断ち切らないといけない思いだ。御坂のためにも頑張るべきだろう。


「……まぁ、頑張るしかないか」


 そんな意気込みを口ずさんだ瞬間。


 少しだけ荒んでいた空模様が晴れて、隙間からは太陽が顔を向ける。燦燦と照り付ける太陽がまるで自分の背中を押しているようだったが、あまりにも強すぎてアンチなのかとさえ思ってしまう。


「……まぶ」


 そんな藤崎を何食わぬ顔で追い抜いていく小学生や中学生。

 彼らの笑顔を見れば、幾らかは元気が出る。やっぱり、小学生は最高だぜ。


「ゆめちゃん‼ 今日放課後はどこ行くぅ~~⁇」

「え、一緒にスイッチやりたいし。おうちデートしようよぉ~~」


「……まじか」


 いや、訂正しよう。

 むしろ、やる気が削がれた。


 小学生の男女二人組を見て、思わず呟いてしまった藤崎。女の子側は唇に人差し指を当てて、男の子の方は彼女の腰を上手そうな手つきで触っている。


 最近の小学生は随分と進んでいるようだな。


 まったく、藤崎なんて三年間の片思いをたったの数分で壊されてしまい糞みたいに落ち込んだというのに、十年ちょいしか生きていなさそうな小学生がイチャイチャしているのを見ていると自分が惨めに思えてくる。


 悔しいよりも、それを通り過ぎて憐れというか、惨めというか、無というか。感情も露わに出来なかった。


 さらに通り過ぎる高校生のカップルたち。小学生の様に大胆ではないが、二人見つめ合い、幸せそうに笑っていて、これまた自分の無力さを嫌というほどに思い知らされるのだ。


「……はぁ。もう、いいや、気にするな、考えるな……くそったれ……」


 そうして、自分に言い聞かせた。


「ねぇ、ねぇ、ゆめちゃん?」

「なぁに⁇」

「だーいすきっ!」

「うへへ~~、私もぉ!」


 いや、やっぱり気にしちゃうわ。

 クソッたれリア充め、爆発しやがれ‼‼




<あとがき>


 こんばんは、歩直です。

 第11話にして、この作品の山場的な展開ですが、普通に通過点として読んでいただければ嬉しいですっ……笑笑 とまあ、彼はどうやって広い敷地を有する大学から彼女を見つけるんでしょうかね? ちょいと僕も疑問ですが、メッセージアプリがあるので大丈夫でしょう。


 というわけで、いつも応援やコメントいただきありがとうございます! 大変励みになっているので、良かったら今後もよろしくです!


 お知らせですが、たいあっぷ小説のほうが落ち着いたら、甘々なラブコメで書こうかと考えています。こういうぎくしゃくラブコメもいいですが登場人物が少ない甘々ラブコメもいいかなぁ……と? 五月病すら溶かせるような展開考えてみますのその都度はよろしくお願いしますね!



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