第9話「過去との決別3」


「ふぅん……それならさ、しっかり言いに行けばいいじゃん?」


 小一時間、藤崎の相談を聞いていた御坂の答えはそれだった。

 ちまちま裏で考えるよりも面にぶつかって挫けて来い――と、なかなか苦しい提案ではあったが、いたって真面目に口にしているようだった。


 まあ、その前にフラれてるしくじけてくだけてるんだけどな。というかむしろ粉々になった後だし。これ以上いじめないでくれ。


「……そ、そうなのかぁ……」


「その顔……なんかだめだった? 私の提案、悪かったかな?」


「い、いやぁ……だって」


「だって、何?」


 突如としてギロッとした視線を向ける御坂。


 碧眼が灼眼に変わったような気がするのは気のせいなのか。古いラノベのヒロインがよく口にする「うるさいうるさいうるさい‼‼」という言葉が聞けそうだなと思った自分が馬鹿なのかもしれない。


 「カリカリもふもふ!」という言葉も聞けたら最高なんだけどなぁ……おっと失礼。


「その……もう、一回、挫けてると言うか……」


「うん、知ってるけど?」


「そ、それなら——」


「いいじゃん、一回挫けてるのならもう一回挫けてくればいいのっ」


「……おい、さすがにそれはきついんだぞ」


「一回も二回も同じようなものでしょ? それに、そうでもしないと終わらないじじゃん」


 あってはいるが元も子もない言い様だ。血も涙もない。


 いやしかし、言葉の端から伝わる怒りの様なもの。

 無論、こんな男が目の前に居れば無理はない。当たり前すぎて、いや当たり前でもないのかもしれないが——ここまで未練たらたらな男がいればどんな女性でもウザったらしく思うのだろう。


「で、でも……」


「……っ」


 ギロッ。

 灼眼どころではなく、目からもろ炎が出ている。いやぁ、マジで怖え。燃え移ったら確実に焼死して終わるくらいヤバそうだ。


「だってさ、一回フラれてんでしょ? それでも気持ちを伝えきれなかったからもう一回告白したい――そんなこと言われたら私も怒るよっ……まあ、隼人を振ったあの女の方が私的には嫌いだし、ウザいし、マジ〇ねって思うけどさ……」


 ――こわ、マジで怖すぎるやんけ。

 なんだ、この表情。魔界の王様か、いやもう閻魔様って言われても信じちゃうぞこれは。


「っく、そ、それは言い過ぎでは……」


「事実だもんっ‼‼ こんなにカッコイイ――まあ今はカッコ悪いけど……でも、かっこいい隼人をあろうのことか公衆の面前で振るのよ‼‼ どうっ考えても許せないわ‼‼」


「ま、まぁ……それはそうかもしれないけどなぁ」


 藤崎も藤崎で御坂がそう思ってくれていることに驚きつつも嬉しかった。普段は直接言ってこない分、こうやって口に出されるとき恥ずかしい。


 藤崎に事になると色々歯止めが利かなくなるところも中々美徳だが、ただ、マジで一言多い。カッコ悪いのは分かってるけどもさ。ディスる相手が混じってるぞ。


「やっぱり、なんというか怖いって言うか」


「なんでよ‼‼ さっさと諦めてほしいって言ってるの‼‼」


「か、簡単に言うなよ……」


「だって……だって‼‼」


「っ——」


 すると、御坂は藤崎の袖をグッと掴み、俯きながらこう言った。


「——だから、その……そんな相手はもうやめてほしいって言うか……気にしないって言うか」


 涙をこらえているのか、下唇を噛み締めながら言っっていた。血が滲んで、フローリングの床に一滴の赤い血が落ちていき、地面とぶつかって弾けたそれは円形に広がった。


 しかし、藤崎は思った。

 

「勘違い、してないか?」


「何が?」


 ムッと頬を膨らましながらジト目を向ける御坂に対して、生唾を飲んだ藤崎は淡々と述べる。

 

「え、いやだって——別に俺はもうあきらめてるぞ?」


「……はえ?」


 ポカーーン。

 そんな音が鳴った気がした。


「い、いや……その、なんというか……俺的にはあきらめてはいるんだよ」


「え、いやだってさっき……佐藤さんに告白したいって……」


「それはなんというか、そのままの意味じゃなくてさ――俺が佐藤さんに『諦めたので気にしないでください!』ってことを言いたいって意味というか、このままじゃ虫の居所か悪いからさ……さっさと気持ちを整理したいんだよ……」


「い、意味が分からないんですけど……」


 大粒の涙が頬を流れたが、しかし表情はあっけらかんとしていた。あれ、まさか、私の勘違いだったの——的な恋愛漫画のワンシーン的な表情だったが今回の話はそこまで深刻ではない。


「……騙した」


「え?」


「……騙した、騙した」


「え、なに、騙した?」


「騙したって——言ってるのぉ‼‼‼」


「えぇっ!」


「何それ、何それ、マジで訊いてない‼‼ 告白って言うなややこしいし、意味が分からないんだけど‼‼ ほんっと心配して損したじゃん、意味わからないし急に変顔するし今度は騙すしなんなのよ、これ‼‼」


「え、だから別にそんな——った!」


 その場にあった本をぶん投げ始める御坂、対して辞書が頭に突き刺さって激痛に苛まれ始める藤崎。


 ギロッと睨みつける御坂、対して歯を噛み締める藤崎。


 銀髪エロさむんむんの御坂、対して黒髪陰キャの藤崎。


「なんか今、ムカついたぞ俺」


「奇遇ね、私もなんかムカッと来た」


 ――そして、小学生ぶりの喧嘩あれが始まる。


「いてぇ……何するんだよ‼‼」


「————いいわ、言ってやるわ、言ってやるもん‼‼ だって、だってさ、だってウザいんだもん、意味わからないんだもんマジでどっか行きやがれええええええ‼‼」


「なんだと、その言い方はねえだろうがよぉ‼‼ それ言ったら御坂だって俺に優しくし捲りやがって、俺だって意味わからないんだよ、大体俺がフラれたのになんでお前が泣くんだよ‼‼ あれのせいで泣き所見失ったんだぞ‼‼」


「いいじゃんいいじゃんいいじゃん‼‼ 当たり前じゃん、一番好きな幼馴染がそんなこと言われたらそりゃ怒るしムカつくし悔しくなるじゃんか‼‼」


「俺の方が悔しいわ、馬鹿やろお‼‼


「私だって悔しいもん、だってそうじゃん‼‼ こんなに優しいのに、まあ今は優しくないけど——いい人だもん‼‼」


「おい、なんか一言多いぞ。でも‼‼」


 まったく、二人ともがあと一年で成年になるとは思えない言い合いだった。イチャイチャしたいカップルか、とツッコミを入れたいところだ。ぶん殴ってもいいかもしれない、読者の皆さん。


「もう‼‼」


「でも‼‼」


 言い合いは止まらない。

 時計の針は刻々と時間を刻み、二人の喉は砂漠のように乾燥していく。

 飛び交う言葉も三つ、二つ、一つ……そして吐息だけが広がった夜九時。


「っはぁっはぁ……つ、つらっ」


「っもぅ、まじ……はぁっはぁ……」


「何やってるんだ、俺たち……」


「ほ、っほんとね……」


「ほんと、っまじ……っっお、っけ、って……ば、ばか……じゃん……っはは、はっはは……っ」


「ってもう……わら、わら、ないでよ……っも、やm、やめてっ——は、っくく……」


 しかし、すべてを言い終えてすっきりしたのかお互いに笑いだす二人。

 結局、その夜は二人仲良く同じ布団の中で眠ってしまった。




 いや、仲良くって何⁉




<あとがき>


 こんばんは、歩直です。

 二人して仲いいですね~~、いやぁ羨ましい。自分にもこんな幼馴染が欲しかったです。というかまず、まともな幼馴染がいませんでしたしそこから始まりますけどね……笑


 ということで、明日からゴールデンウィークですね。金曜日を挟んでですがおそらく会社勤めの肩なら有休をとっているのではないでしょうか? 学生さんも社会人さんも日々お疲れなので、しっかり休んでくださいね。僕も一日二投稿を目指して頑張ります。もしかしたら三つ目のアルバイトが受かるかもなので忙しくはなるかもですがこんなに読者さんがいれば頑張るしかありませんよ!笑


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