第8話「過去との決別2」

「————さ、佐藤さん?」


「————ふ、藤崎くん?」


 見つめ合う二人、触れあう心。


 ——と、言ってみたいところだが別に触れ合ってはいない。


 しかし、彼の両足は石のように固まっていた。震える声、泳ぐ瞳、見つめ合った時から藤崎の胸中はぐるぐると回って、動揺が支配する。


「……あr、れ、ここだったんだ……」


「そ、そうだけど……」


「へ、へぇ……ぐう、偶然だねっ」


「そ、そうだね……」


 ぎこちない会話、それは佐藤さんも同じで藤崎のように少しだけ動揺している。それに加えて、隣にいる男が頭の上に『?』を浮かべていた。


「ん、佐藤。知り合い?」


「あ、そ、そう……い、一応。高校の時の知り合い、だけど……」


「へぇ、そうなんだ」


 ポカーンと見つめるその男。

 首からは少し派手めなネックレスを下げて、燦燦と照り付ける太陽に反射する銀色の髪。御坂の銀髪を思い出したが御坂の天然色とは違って彼の場合は明らかに染めているものだった。


「——ん」


 ゴクリと生唾を飲む藤崎。


 彼女を前にして、思うように口が動かない。

 しかし、その理由は簡単に出てくる。なぜなら目の前にいる彼女は自分が告って、そして断られた本人でもあるから。


 考えようとしなくても、どうしても気持ちがモヤモヤしてしまう。最近はようやく落ち着いてきたのに。こんなところで急に会うものだから、動悸が早まって呼吸が荒げてしまう。怖さもあるし、緊張もあるし、何を話せばもいいか分からない。むしろ、目を合わせてしまったのが運の尽きだ。


 もう、どうしようもできないと悟った藤崎はなんとか声を振り絞ってから、走り出した。


「——あ、そのっ、お、俺……もう行くねっ」


「え、あっ」


「ごめん、なさいっ——!」


 離れゆく背中、焦っていたのか彼の額からは微量の汗が風に乗って空中へ舞った。それを立ち止まって見つめる佐藤鏡花さとうきょうかは不意を突かれたように呟いた。


「——行っちゃった」


「はぁ……どうしたんだ、あいつ?」




 思い出される記憶、羞恥と後悔にさいなまれた藤崎は工学部棟のある第二区画まで走った。


「っはぁ、っはぁ」


 風を切って、上に羽織っていたパーカーを傍目かせ彼は走る。すれ違う人々は彼の形相に驚いてあっけらかんとしていたがそんなことを気にしてはいられなかった。


 数分後、工学部棟に入った藤崎は近くにあったベンチに腰を掛ける。


「っはぁ……ま、まじかぁ」


 怖じ気づいたように、溜息を漏らす。

 額を触ると大量に付着していた汗に気づき、自分がどれほど焦っていたかに気づいた。


「く、くそぉ……なんで俺が……」


 本当に、なんでなのか。

 それを知りたい、藤崎は深く息をついて研究室に向かった。



~~~~~~~~


「ただいま……」


「うん、お帰りぃ~~」


 御坂みさかが扉を開けると、少しだけむすっとした表情をした藤崎がゆっくりと中に入る。


「……どったん?」


「ん、何が?」


 疲れた声で聞き直す藤崎に対して首を傾げる御坂。

 腰辺りまで垂れる銀髪を右手でくるくると捻じって、「まぁ」と一言呟いた。


「顔がなんか暗そうだったし……」


「まじで?」


「うん、まじっ」


 彼女の碧眼が瞬きをするごとに大きくなり、最終的には暗い顔をした藤崎の前で、堪えられずにクスクスと笑っていた。


「……なんで笑うんだよ」


「っっ。いやぁ、なんかね、最近ずっとそんな感じじゃん?」


「ずっとではないと思う」


「いーや、ずっとだよ」


 すると、笑うのをやめ、真剣な眼差しで御坂は言った。


「昨日、寝る時さ、隼人の方が先に寝ちゃってたから見たんだけど」


「は、寝顔見たのかよっ」


「うん、可愛かった~~」


「っく……うるせ、聞かねえぞ」


「はははっ、ごめんごめん! でも、事実だし」


「そうかよ……」


「それでね、ついこの前までは気持ちよさそうに寝てるのに、最近はずっとさ気難しそうな顔してるんだよね……」


「気難しい、か」


 確かに、思い当たる節はある。

 最近はよく夢にあの人が出てくることも多い。落ち着いたとはいえ、すべて忘れたとは言ってない。


「そうか」


「うん、だからあんまり根詰めないでよねっ!」


「別に、そういうのは大丈夫だよ」


「そ」


「ああ」


 御坂は寂しそうに呟いたが、案外、その表情は明るそうだった。

 しかし、彼女は途端に振り返った。


「——ねぇ」


「ん、ど、どうしたんだ?」


 声色が違っている。

 先ほどまでの少しだけ元気そうな雰囲気はなくなっていて、こちらに向けた瞳は真剣だった。まるでプロポーズでもするかのような眼力、可愛い碧眼が一瞬黒っぽく見えたのは自分だけだろうか。


「うそ、言ってるんじゃない?」


 淡々と冷静に御坂は言う。


「いや、別に……そんなことは……っ」


「ほら、その顔。私、分かってるよ?」


「ま……うん」


「なんかあったんでしょ……?」


「うん……」


 さすがに、ここまで問いただされればしらばっくれることなどできなかった。それに、この事ともさすがに決着をつけたい。振られた時点で決着はついてるだろ――なんてことは分かっているけど、心の端に引っ掛かった気持ちを振り払えるのなら相談するのもいい手ではある。


 少し間を開けて、藤崎は頷いた。


「——っていうけど、まずその前に! あれね‼‼」


「え?」


「ご飯でしょっ! 疲れたんなら——まずご飯よっ‼‼」


 しかし、藤崎のやつれた表情を明るく照らす幼馴染。

 太陽なんかよりも明るくて、例えるならシリウス――とか何とかいう星の様だ。


 そして、そんな彼女の笑顔を見て、クスッと笑った藤崎だった。





<あとがき>


 皆さん、こんばんは!

 歩直です。

 

 第八話ということで、旧作ではあまり再現できなかった未練の断ち切りを軸に進めていこうかなと思っています。本格的にルートが分かれるのは今回からですね、ほんとすみません!


 あくまでも個人的な見解ですが、大学生の恋愛って歪み切っていて腐っているようなもの――と現役大学二年生は感じております。遊びたい心と将来を考える心、両立が相反してごちゃごちゃで——と言った感じです。この作品を読んでくれている受験生はいるのかな? まあ高校生でもいいけど……。まあ、彼女は早めに作って遠距離でもいいから成功させた方がいいですよ! 覚えておいてください!


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