第6話「オンラインの授業が始まる」


「どぉう?」


 藤崎が律儀にノートを取っていると、自分の授業をほっぽり出してきたのか御坂が後ろから話しかけてきた。


「……ん、まぁ、普通だよ」


「へぇ、そう……じゃあ」


「——?」


「えいっ!」


 ばふっ。

 位置エネルギーが変わり、彼女は立った状態から一気に急降下するように藤崎を抱きしめた。慣性の法則で宙に舞った銀色の髪が朝の不安定な目には少し眩しかったが10年以上一緒に居れば流石に慣れる。


 むしろ、慣れていないのはこの抱きしめる癖の方だった。


「っ——お、おいっ!」


「うへぇ~~~~、ほらほら、どうだぁ~~!」


「おま、マジでやめっ」


「え、なにぃ⁇」


 くふふと笑みを溢す御坂。

 それに対して、頬を赤くして嫌な顔を見せる藤崎。


 今回が初めてかと言われたら、答えは否である。遡れば鮮明に思い出すことが出来るが、彼女は小学校の頃からよく藤崎を抱きしめていた。当時の彼は特に羞恥心の欠片もなく、仮面ライダーに憧れた正義感の持ち主で「俺、参上!」なんてよく名台詞を言っていたくらいには普通の男の子だった。女子に抱きしめられて恥ずかしくはないし、自分が仮面ライダーならば普通だろうと思えるほどの鈍感さを兼ね備えてもいた。


 まったく、今の自分から言わせてもらえば清々しいまでの馬鹿だ。


 ただ、その時期も長くは続くかない。小学高学年、そして中学生、そんな思春期真っ貞中の時期でも少し大人な御坂は抱きしめ続けた。無論、年頃だ。登下校や昼休み、学校でもよくしてくるため周りの友達にいじられ、関係があるのかないのかと聞かれ嫌になってからと言い、嬉しい気持ちと嫌な気持ちが混在している。


 女子から、というか可愛い幼馴染から抱きしめられる優越感。対して、友達から茶化されて恥ずかしいし、カッコ悪いなんて思ってしまう羞恥心。その二つに現在も苛まれている大人子供だ。


「……やm、やめろ」


「なんでよぉ、いいじゃんっ」


「よくない、勉強できないし……」


「いいじゃん、その資料ってあとで張られるんでしょ?」


「っく……そうだけど、今書いたほうが——」


「ええぇ~~、せっかく私がかまってあげてるんだよ? そう言って逃げちゃうのぉ?」


 首の後ろから正面に伸びた細い腕、細すぎて折れてしまいそうなくらいの華奢な腕を掴んで、それを後ろに戻した。



「うわっ」


「いいから、授業が終わってからにしてくれ……ていうか、だいたい御坂も授業会っただろ? 心理学のさ」


「今、休憩なの」


「どこがだ、分かってるぞ」


 しかし、御坂の嘘はすぐに見抜かれたようで。

 藤崎は振り向いて、彼女の黄色のPCを指した。


「ほら」


「……ええ、どこがーー」


「棒読みになってるけど?」


「んぐっ——、ば、バレたか……」


「バレるも何も、最初から分かってる。何より御坂が真剣に授業受けてる姿を見たことがないからな」


「んな! そんなことないし! ていうかまだ、始まったばっかりだしっ‼‼」


「はは、その始まったばっかりの授業をほっぽり出してるんだ。どうせ今後もやるだろ?」


 叩きつけられる正論にぷくーっと頬を膨らませる御坂はすくっと立ち上がって藤崎の頭を二度叩いた。


「うぅ~~‼‼」


「った、いたいいたい、やめっ——」


「ひどい、かまってくれたっていいじゃん……」


 ぷんすかと小学生の様な顔をしていた御坂は俯きながらそう言った。


「——なんで、俺が、悪いみたいになってるんだ」


 しかし、見透かしたように藤崎はチョップをぶちかます。

 ごてッと揺れた御坂はうへっと声を上げて、悔しそうに拳を握り締めていた。


「っもう……なんでよぉ」


「はいはい、そういうのは授業が終わってからな」


「むぅ‼‼ 隼人のケチ、おたんこなす‼‼」


「誰が、おたんこなすだ……てか、なんだよそれ?」


「いいもん、おたんこなすはおたんこなすだもん‼‼」


 真っ白な頬を桃色に染めて、ぷくりと膨らませている彼女。腕を組んで、貧相であまり起伏のない胸を寄せていたが無論、小さいことには変わりなかった。


「はぁ……頼むから、授業くらいはしっかりとやらせてくれよ……」


「そ、そんなに言うなら……分かったけど」


「ちゃんと、授業が終わった後ならかまってやるから、それでいいか?」


「ほんとに……?」


 上目遣い。

 身長が一寸法師かと勘違いしてしまうくらいには小さく見えるが実は148センチもある。だが、そんなことは抜きにして彼女の上目遣いに藤崎に胸は弾んだ。


「あ、ああ……ほんとだから、安心しろ」


 すると、御坂の瞳は光って飛び跳ねる。


「——っやったぁ‼‼」


 まったく、可愛い。

 幼馴染という存在自体、世界で一番可愛いことは決定事項なのだろうか——と疑問に思ってしまう藤崎は溜息をついた。





<あとがき>


 こんばんは、歩直です。

 まず、☆200突破ありがとうございます‼‼

 フォロワーさんも順当に増えてきたので、何とか今までの通りに行ってくれればうれしいです。旧作版も最初の章に投稿しましたがどうでしょうか? 新作はこの章からなので面白いなと思ったら是非、応援、コメント、星評価などもお願いします!


 1000フォロワー目指して、ラブコメランキングTOP10に入れるよう頑張っていきます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る