第5話「色気というかお子様な銀髪幼馴染」

 ――そして、初のオンライン入学式が始まった。


 だが、しかし。


「っっ……!」


 藤崎が静かに画面を見つめていると脚の上に座っている御坂はクスクスと笑い、肩を揺らしだした。


(落ち着きねぇな……ほんと)


 それも仕方ないか――と心の中で納得して、藤崎は問う。


「——ど、どうしたよ?」


「っ、い、いやっ……だってさっ——ぷぷっ!」


「なんだよ、笑いすぎだぞ……」


 ジト目を向ける藤崎、しかし彼女は止まらない。数秒経った後、彼女は何とか呼吸を整え、深呼吸を挟んでからPC上を指した。


「——こ、これっ」


「え」


 すると、その先に居たのは剥げたおっさんだった。


 だが、どんなジョークだったとしてもそんなことは言ってはならないのだ。


 なぜなら、この人は大学の学長だからだ。


 東北大医学部を卒業し、すぐにその年の異才として称えられ、青年から中年時代には数々の病気の治療法を編み出したとされる世界的にも有名な伝説の男が——御坂が言う「」だったのだ。


「は、は、はげてるっ……」


「やめろ、ていうかまじで言うなっ——」


 ピッカピカの頭、そしてそれを目立たせるような天井からの光源。星のように輝くまん丸なに藤崎もクスリと笑ってしまった。


「っ……」


「で、でしょっ……」


「え、ぃ……や、やめろっ……」


「わ、笑ってるじゃんん」


 肘でお腹を突かれる藤崎は何とか深呼吸をして、なんとかその場を凌いだのだった。




 あれから一日、爆笑渦巻く入学式も終わり大学の講義が本格的に始まるのは明日になった今日。先に配られた「教育の理念」という教科書を読んでいる御坂の隣で寝転がっていた藤崎はとあるライトノベルを読んでいた。


 ☆☆



『——好きですっ!』


 少女が言った。


 振り絞って飛び出た魂の叫び、溢れるばかりの気持ち、抑えきれない衝動。


 ライトノベルに登場する女の子の言葉がそれだった。


『っ――――う、うんっっ!』


 対して、泣いて喜ぶ彼。


 胸に手を当てて声を振り絞る彼女の華奢な身体を、今にも崩れゆきそうな身体を彼の優しそうな声と包容力のある大きな男らしい身体で包み込む。



 ☆☆



 ——そんな、高校一年生の時に「稀に見る名作」として揶揄されていたラブコメ小説を藤崎はぼんやりと眺めていた。


「——くそ、だな」


 数年経っても色褪せない緻密な表現と文章に嫉妬すると同時に。


 傷は決して癒えない。


 よく、男子は別保存で女子は上書き保存だと言われることがある。藤崎もそれは確かにあるかもしれないと思っていた。


 実は、以前にも付き合っていたことがある。中学二年の頃に好きな女の子に告白して、付き合って、きっと一生付き合うのだろうなと信じていたときの思い出も未だに覚えている。


 フラれてからの一年間は彼女のことを忘れることなんてできなかったし、それから数年間も引きづった。


 しかし、そこで現れたのが入学式で一目惚れした学年一の美少女だったのだ。


「あ、藤崎君! よろしくねっ‼‼」


 天使の様な笑顔、女神の様な優しさ。

 そして、輝かしい美貌。

 ニコニコと笑っている彼女に惚れてしまうのはもう、時間の問題だった。



『っ!』


『ん? だ、大丈夫っ?』


『——えっ⁉ あ、う、うん‼‼』


 当時のサッカー部員は全員、彼女の事が好きだったという噂もあるほどに人気だったらしい。まぁ、思っている通り全員が悉く散ったけれど、それを抜きにしたって彼女は皆が憧れる良い女性だったのだ。


 そんな出会いが引きづっていたあれを塗りつぶしてくれたのに、こんな終わり方になるとは——、


「できないできないできないっ‼‼」


 ——と感慨にふけっていたのだが、今度は逆に隣の幼馴染がうるさすぎて忘れてしまいそうだった。


「もぅ——心理学とかやるのぉ、私……?」


「はぁ……さっきからぶつぶつと、どうしたんだよ?」


 藤崎は手に持っていたラノベを地べたに置いて、御坂の肩を掴み、訊いてみた。


「え、あ、うん……なんかね、教育の一年忙しいって聞いたからさ、結構準備してたんだけどそれにしても多くてね」


「あぁ、まぁ確かによく聞くな……でもそんなもんなんじゃないのか? 俺だって、工学部も二年生からは特に忙しいって聞くし」


「——いいじゃん、二年だもん」


「よくねぇよ、資格とかとらんと行けないのよ……そんな中忙しいとかやべえって、まったく」


「むぅ……私だって、先生になる試験とかあるもんっ」


「じゃあ、お互い様だよ」


「……はぁあ~~、でも意外と憂鬱よね……」


「一昨日と言ってたこと逆だなぁ」


「いいもーん、女子なんてそんなもんだよーだっ!」


 そんな御坂の女子気持ちトークを聞いて、へぇと頷く藤崎だった。

 

 ——それにしても、ここまでずっと我慢してきたが言うことにしよう。


「そうかいそうかい、それでな、御坂」


「……ん、何?」


 あっけらかんとこちらを向いた彼女。

 まるで、ラノベの「俺何かしました?」系主人公の様な鈍感顔を見せているが逆に聞きたい、気づいてないあんたの羞恥心はどこかに消えたのか、と。


「——さっきから、パンツ一丁なのまじでやめてくれ」


「——え?」


「目のやり場に困るんだ、たっく……」


 沈黙が始まる。

 一秒、二秒、三秒、そして五秒。

 カウントを始めて数秒が経った頃、御坂の顔は一気に朱に染まった。


「っ……っひゃああああああああ‼‼‼‼」


 細くて白い小さな手でダボダボTシャツを伸ばして水色ストライプの可愛い下着を隠したのだが、言わずもがな藤崎の瞳には鮮明に映っていて、その日はずっと周りのものがストライプにしか見えなくなる病にかかってしまったのはまたいつかはなすとしよう。








<あとがき>


 こんにちは、歩直です。

 いやぁ、実は僕も一年生の時はこんな感じでオンライン授業でしたね。入学式は中止になったのですが、その辺は想像で書きました。友達と家で話をしながら授業を受けていたので、笑って声が入ったら終わるんですよね笑


 とまあ、旧作で投稿始めていきます。

 4月末までにフォロワー700人、☆200目指していきたいと思います。この作品もおそらく100話か200話くらいで完結すると思いますが、そしたら次は糖度100のラブコメ書きたいなって思っています。


 良ければ、フォロー、☆評価、そして応援などなど待ってます! 余裕があれば、作品を広めるためにもコメントレビューしていただければ幸いです。記事化も果たしたので、次こそは書籍化目指して投稿頑張ります。


 もちろん、GWはバイトも休みなので毎日投稿できると思いますが、お休みの日は火曜日に設定しようかなぁと思ってます。

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