スタイリッシュ農業 (KAC202110出張中)

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 農業が植物を育てて収穫する産業から、植物モンスターをnot agricultural grasper/(gratitude):対狂暴農作物用収穫機、通称ノーグという特殊な武器を用いて狩る戦いに変わって早十年。

 現在、奇妙な現象が流行っていた。


 『枯れかけの農作物は弱る。』

 これは植物時代の農作物も同様だった。

 が、最近奇妙な事例が報告されつつある。

 『枯れかけだった奴が狂暴化して活発に動いている。』というモノだった。



 「で、それを調査するのが今回の僕らの仕事ですか……。」

 手に持った切断式狂暴農作物収穫機:not agricultural cutter。通称『ナタ』を振り回しながらぼやく。

 「そうよ。先ず、枯れかけを見付ける。そいつが狂暴化の兆しが無かったら狩る。

 兆しがあれば……。」

 「生け捕り。でなければ原因の特定に繋がるモノを見付けて来い……かぁー、お上も面倒な事を仰る。」

 巨大なバズーカ砲を携えた女性、朝比奈あさひな陽火ようかと大鎌を構えた男性、蛭間ひるま匠悟しょうごの2人が答える。

 僕の名前は夜野やのこう。農林水産省対狂暴農作物特別対策室という名乗る度に舌を噛みそうになる所に所属している公務員だ。

 近年、農林水産省が植物と植物モンスターの両方のアレコレを請け負う面白機関になり、老害…もとい、サービス終了したおつむの方々は植物モンスター面倒な案件を若手に託した押し付けた

 その、押し付け先。農林水産省対狂暴農作物特別対策室というご立派名前部署が僕の所属だ。

 「あの老いぼれ狸は腹が立つけど、でもそれが必要なのも事実よ。

 私達が情報を集めていかないと、農家の人達は命を喪うかもしれない。

 頑張りましょう。

 それに、何となく聞いた話を総合すると、原因に心当たりが有るの。」

 ひた向き。有能。真摯で親切。故にこんな場所に来てしまった朝比奈さん。

 使うノーグは回転式極小空気銃(Turbine minimum air gun)、通称:唐箕ガン。その辺の木々なら余裕で風穴を開けられる凶悪エアガン使いだ。

 「なぁー、だが、面倒だぞ。

 聞いた話だと、この辺の農作物はその狂暴化個体の影響か、尻尾撒いて別の地域に逃げたらしい。

 挙句に目当ての個体は中々顔を見せない……。

 見つけるのは骨だ。」

 若手に押し付けられた厄介事を如何にか自分達で責任を取ろうとしてわざわざキャリアを捨てて来た風変り良心、蛭間さん。

 近接収穫curve特化型blade曲刃収穫機murder。通称:大鎌。

 死神の持っていそうな物騒な大鎌を孫がもう直ぐ生まれるおじさんが振るっているんだから、戦慄だ。


 「確かに、正攻法では見つからないでしょう。

 だから、夜野君に来てもらったのよ。」

 そう言ってこちらに目配せをする。

 何となく、『見つけるのが面倒な奴を見付ける』という仕事内容と自分が選ばれた段階で察していた。

 彼女は僕ので対象を見付ける気らしい。

 「じゃぁ、少しその辺に腰掛けて、楽な姿勢でいて下さい。

 なるべく音は立てない様に。」

 そう言いながら自分は切株に腰を下ろして目を瞑る。

 それを見た二人が近くの切株に慌てて座って息を潜める。

 「集中、視覚を無くして聴覚に回す。

 聴覚を広く、拡く、面を大きくしていく………。」

 僕の能力、それは耳が良いというだけの能力。

 ただし、集中力を限界まで上げれば500m先のコソコソ歩く足音もくっきり聞こえる高精度広範囲聴力。

 これを用いて不自然な音、つまり農作物の居場所を探ろうというのが、朝比奈さんの狙いだ。

 何の役に立つのだろうかと頭を抱えていた学生時代の自分は今、こうして仕事に活かしている事を知らない。


 ガザッ


 集中力を広げた範囲の中。人が居ない筈の都市郊外で、何かが動く音が聞こえた。

 小動物ではない。日本には存在しない様な巨体の生物……この音だと500㎏は多分超えている。

 木の葉が擦れる音も聞こえるし、何か小さなものが時々周りに落ちる音も聞こえる。

 「見つけました。南南東、距離430m。

 多分ですが、大樹です。」

 「じゃぁ、行きましょう」「あぁ、行くか。」

 二人は武器を持って躊躇い無くそちらへ向かった。






 数分後、僕らが見たのは枯れかけの大樹だった。

 根の部分だった所は5つの足になって地面の枷から逃れ、樹皮部分は横一文字に裂けてそこから杭の様な牙が見えていた。

 枝はカサカサ木の葉を揺らしながら手の様に動き、周囲の木々を邪魔だとでも言う様に薙ぎ倒していた。

 枝には棘だらけの実。

 枯れた葉が散っている。

 相手は何か大事なものを探す様に…或いは自分が壊すのに丁度良いものを探す様にグルグル動き回っていた。

 動きが荒い。で、大きい。

 気付かれないように距離は取っているけど、全長、おおよそ7mくらいだ。

 「ありゃあまぁまぁ立派な栗の木だなぁ。」

 大鎌を担いだ蛭間さんがぼやく。

 そう、栗の木。

 今回の対象はどうやら栗の木らしい。

 「矢張り……動きが変ですね。

 蛭間さん、あのタイプの変異種には、見覚えはありますか?」

 双眼鏡で確認していた朝比奈さんが蛭間さんに訊ねる。

 「無いな。あんだけ葉の色が変わっておきながら、ここまで動くのはおかしい。

 当たりだな。」

 そう言って担いだ鎌の刃の輝きを一瞥した。

 「では、捕獲……いえ、あのサイズですから、収穫しましょう。

 いつも通りの戦術で。」

 「よっし。一丁動くか!」

 「解りました。」

 各々武器を構えて、いざ、収穫開始だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スタイリッシュ農業 (KAC202110出張中) 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ