第7話 王都へ

「おい、ローリー! あんまし私に近寄んじゃねぇ!」


「だからその呼び方止めろ!」


 教会を出てからずっとこんな調子である。


 今、リシャールとセイラは、護衛の2人と共に馬車乗り場へ向かっていた。王都へ向かうためである、リシャールの手元には、教会でセイラが作った聖水を入れた瓶がある。


 馬車乗り場に着いた。 


「二人っきりになったからって、妙な真似しようとしたらタダじゃおかねぇからな!」


「だからしないって!」


 二人は馬車の端と端に離れて座った。ちなみに護衛の2人は1人が御者、1人が馬に跨がっている。


 馬車が出発する際、セイラがハッと窓から身を乗り出し、後ろの方に厳しい視線を向けた。


「どうした?」


「...いや、別に」


 馬車が出発するとセイラは、リュックから何かの部品を取り出した。そしてそれらを丹念に磨きながら組み立てていった。


「何してるんだ?」


「武器の手入れ」


 やがてセイラの手元にクロスボウが現れた。


「何のために?」


「用心のためだよ。冒険者の心得ってヤツだ」


「ここに来る時も何もなかったよ。問題無いんじゃないかな。この辺りは盗賊も魔獣も出ないし、物騒な所じゃないと思うけど?」


「...だと良いんだがな...」


 低く呟いたセイラの言葉は、リシャールの耳に届かなかった。



◇◇◇



 ロッサムの町を出て約3時間、馬が疲れて来たので、小休止を挟もうと街道脇に馬車を止めた時だった。先に馬車を降りて、護衛の2人と辺りを警戒していたセイラが、素早く戻って来て告げた。


「ローリー! 囲まれてる!」


「だからその呼び方...なんだって!?」


 リシャールが急いで周りに目を向けると、馬車の進行方向から5人、逆方向からも5人の賊が近付いて来るのが見えた。護衛2人は、それぞれ前後に分かれ賊共と対峙する構えだ。


「後ろの5人頼む!」


 それだけ言うと、セイラはリシャール達が止める間もなく、前方の賊共に向かって走り出していた。


「セイラっ! 待てっ!!」


 慌ててリシャールが叫ぶも、既にセイラは弓を構え矢を番え賊共に放っていた。



 一度で5本の矢を。



『マジックアロー』



 セイラの魔力が付与された矢は、赤、青、黄など様々な色彩を帯びながら飛んで行き、正確に賊共の足を貫いた。5人全員が足を射ぬかれた賊共は、その場に崩れ落ち動きを止めた。


 (なんだ、今のは!? 矢に攻撃魔法を乗せて放った!?  そんなこと可能なのか!?)


 リシャール達が呆気に取られていると、味方をやられて焦ったのか、後方に居た賊共が剣を抜いて慌てて斬りかかってきた。


 ハッと我に返ったリシャール達が応戦するも、相手は多勢に無勢、リシャールとて王族の端くれである以上、当然剣の心得はあり、相手が相当な手練れでもない限り、一対一なら負けない自信もあった。


 だが賊共は二手に分かれ、3人が護衛達に、2人がリシャールに向かって来た。


 リシャールが賊の1人と相対し初撃を受け止めるも、その横からもう1人が襲いかかって来た。



 (マズい、やられる!!)



 リシャールの頭の中に走馬灯が流れそうになった刹那、


「ぐぇっ!」「うぎゃ!」


 2本の矢が飛んで来て、リシャールに襲いかかっていた賊に突き刺さり、2人共に血を撒き散らしながらぶっ飛んで行った。


 矢の飛んで来た方を見ると、弓を放った姿勢のセイラが佇んで居た。


「ローリー! 大丈夫か!? 怪我してねぇか!?」


「だからローリーって呼ぶな!」

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