第6話 変態はお断り

「しっかし王子様よ、こんなのが聖女になって本当に大丈夫かぁ?」


 神父にこんなの呼ばわりされたセイラはカチンと来た。


「うっせーよ! あんたが聖職者名乗るよりゃマシだっての!」


「んだとこのガキ! 体ばっかりデカくなりやがって! その割にゃあ胸はペッタンコのクセに!」


 その一言でセイラは完全にぶち切れた。


「て、てめぇ! 良くも人が気にしてることを! ぶっ殺してやる! オモテ出ろや! ゴルァ!」


「上等だゴルァ! 吐いた唾飲まんとけよ!」


「止めないか! 二人とも!」


 低レベルな争いに痺れを切らしたリシャールが中に割って入った。酔っ払いと子供のケンカは質が悪い。っていうか、コイツは本当に神父なのか? と疑い出していたりする。


「なんだなんだ!? もしかして王子様は貧乳が好みだったりすんのか!?」


 今度はリシャールにも飛び火した。この酔っ払いめがぁ!


「ぼ、僕は、べ、別に、お、大きさなんて、き、気にしないし!」


 いきなり振られたリシャールはしどろもどろになる。


「だってよ!? 良かったな、貧乳♪」


「貧乳言うな! これからデカくなるんだっつーの!」


 そりゃそうだろう。まだ10歳なんだから。焦るような歳じゃない。これからなんだから。たとえ外見がそうは見えなくとも。中身はまだ子供だ。


「大体、なんで王子の好みが関係あんだよ!?」

 

「なに!? 知らねぇのか? ってか王子、言ってねぇのかよ!?」


「あぁ、うん、それはその...」


 途端にリシャールの歯切れが悪くなる。


「なんだよ! ハッキリ言えよな!」


 今度はセイラが痺れを切らした。


「え、え~とだな...」


「セイラ、お前さんがもし聖女になったら、この王子様と結婚することになるんだよ」


 リシャールがまだ言いあぐねている内に、神父がニヤリと笑いながら言ってしまった。この酔っ払いは本当に始末に負えない! 


 だがこのことをセイラに黙っていたのもまた事実だ。リシャールは騙していたような気分になって申し訳ないと思っていた。


 セイラの時がしばし止まった。 


「は!? はぁ!? はぁぁぁっ!」


 しばらくして、セイラがようやく再起動した。


「けけけ結婚だぁ!? なんで!? なんで!? なんでそんなことになるんだよ!?」


 セイラがパニック状態になる。


「なんでって...昔っからそう決まっているとしか...」.


「私は絶対認めないからな!」


 セイラは指をビシッとリシャールに向けて突き立てて、そう宣言した。


「い、いや、まだ聖女になるって決まった訳でもないし...結婚とかもまだそんな段階でもないし...」


「ハッ!? ま、まさか!?」


 リシャールの言葉を聞かず、何に気付いたのか、セイラは急に自分の体をかき抱いた。そしてリシャールを睨み付けて、


「私のことをずっとそんな目で見てたんだな! この変態!」


「ばっ! ちがっ!? へんたっ!?」


 リシャールは言葉にならない。


「このロリコン変態王子がぁ!」


「だから違うって!」


「ロリコン変態王子リシャール! 略してローリー! これからはそう呼んでやるぅ!」


「その略しかた止めてぇ~!」


 カオスと化した状況に、神父は一人で笑い転げていた。

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