第5話 聖女の片鱗
「あ、セイラ、ちょっと待ってくれ」
リシャールは先を急ごうとするセイラを呼び止めた。
「なんだよ?」
「教会に寄ってから行こう」
「教会? なんで?」
「『聖女認定の儀』に必要な聖水を作るためだ」
「聖水ってあれか? アンデッドにぶっかけるヤツ?」
「そう、それだ。聖水を作れることが聖女になる条件の一つでもある」
「どうやって作んだよ?」
「それは教会に行ってから説明する」
この町の教会は小ぢんまりとしていて、大理石造りの白い外壁が荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「あれ? 誰も居ないのかな?」
教会の中は無人だった。神父もシスターの姿も無い。
「どうせ昼間っから飲んだくれてんだろ」
そう言ってセイラは、勝手知ったるかのように奥へ進んで行く。
「お、おい、セイラ!?」
リシャールが慌てて後を追う。やがて神父の控え室と思われる部屋に着くと、セイラはノックもせずドアを開けた。
「おい! この生臭神父! とっとと起きやがれ!」
セイラが一喝した先には、酒瓶を抱えてだらしなくソファーに寝そべる赤ら顔の神父の姿があった。
「ふにゃあ...もう飲めねぇっての...ヒック!」
◇◇◇
「うぅ...頭痛てぇ...み、水」
「ったく、しょうがねぇな、ホラよ。酒も程々にしねぇと早死にすんぞ!?」
セイラが水を渡すと、神父はひったくるようにして呷った。
「バカモン! いつも言っとるだろ! これは酒ではなく般若湯だと!」
「ハイハイ、じゃあ、私が飲んでも平気なんだよな、ゴクゴク、プハ~♪」
セイラは一気飲みした。
「こ、こら、止めんか! ガキのクセに何考えとる!」
「安い酒飲んでやがんなぁ。つまみはねぇのかよ?」
「居酒屋みたいに寛ぐんじゃないわ!」
リシャールはこのやり取りを呆然と見詰めるしかなかった。口を挟む余地がない。
「んで? 何者だ? コイツは?」
神父がやっとリシャールの存在に気付いた。
「王子様」
「へっ!?」
このやり取り何回目だろう? そう思いながらもリシャールは神父に説明するのだった。
◇◇◇
「はぁ!? コイツが聖女だぁ!? なんかの間違いだろう!?」
「うん、私もそう思うよ」
「まぁでも、やってみなけりゃ分からないだろ? 聖水を作るのに協力して欲しい」
「聖水ねぇ。コイツに作れるとは思えんが、まぁ良かろう。連いて来い」
神父に案内されたのは、奥に女神像が飾ってある小さな部屋だった。
「ここは『祈りの間』だ。ここで女神像に祈りを捧げて聖水を作るんだ」
そう言って神父は、水差しを持って女神像の頭の上から水を掛け始めた。その水は女神像を循環し、足元にあるバケツに滴り落ちている。
「ほれ、セイラ。さっさと祈りを捧げんか。水が無くなる」
「やったことねぇのにどうやんだよ?」
「魔力を集中させるんじゃ」
「回復魔法を掛けるみたいにか?」
「そうじゃ。早くせい」
『グランドヒール』
ギルドの時と同じように、セイラが呪文を唱えると、部屋中に光が溢れた。
「こ、これは!? 凄い魔力量じゃな!?」
光が収まった後、女神像の足元にあるバケツの水が虹色に輝いていた。
「なんと! これは驚いた! こんな輝き見たことないわい!」
「成功したのか?」
リシャールが期待を込めて見詰める。
「分からん。だが、王都の鑑定スキル持ちの神官に見て貰えばハッキリするじゃろ」
スキルとは、生まれながらに神から授かる特殊な能力のことで、ギフトとも呼ばれる。様々なスキルがあるが、特に鑑定スキルは、王都にある神殿の神官になるためには必須と言っていいスキルである。
「良し! じゃあ早く王都に行こう!」
リシャールは弾んだ声でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます