第4話 自称婚約者

 あの見た目で10歳だって?


 リシャールはとても信じられず、しばし呆然としていた。そこへ、


「母ちゃん! 話終わったか?」


 当の本人がやって来た。


「セイラ! なんです、ノックもしないで!」


「あぁ、悪い悪い」


 頭を掻きながら悪びれず言うその様を見ると、10歳という年相応の態度に見えるが、いかんせん見た目は超絶美少女なものだから違和感が半端ない。


「あら? シオン? あなた何してるの?」


 見ると、後ろからセイラの腰の辺りに手を回して、しがみ付いてる子供が居る。


「あ~...コイツ、私から離れようとしねぇんだわ...」


「こら、シオン!  セイラが困ってるでしょ!  手を離しなさい!」


「ヤダっ!  離したらセイラ姉、どっか行っちゃいそうなんだもん!」


「さっきからこの調子なんよ。どこにも行かねぇって言ってるのに」


 苦笑しながらセイラが言う。リシャールの位置からは顔が見えないが、髪が短いので男の子なのだろう。


「我が儘言ってるとオヤツ抜きよ?」


 アンジェラに言われてサっと離れた。オヤツの魅力には勝てなかったらしい。改めて少年を観察する。年の頃は7、8歳くらいだろうか。とても整った顔立ちをしている。


「シオン、一体どうしたの!?  あなたこんな聞き分けのない子じゃなかったでしょ!?」


「......」


 シオンは答えない。するとセイラがおずおずと答えた。


「え~と...なんか私が王子様を連れて来たから? 王子様が私をそのまま連れ去るんじゃねぇ? とか思ったみてぇなんだわ」


「お前なんかにセイラ姉は渡さないぞ!  セイラ姉はボクのお嫁さんになるんだからな!」


 そう叫んだシオンは、涙を流しながらリシャールを睨み付けた。


「あらまあ、シオンは本当にセイラの事が好きなのね~」


 アンジェラが慈愛に満ちた笑みを浮かべながら言うと、


「当然さっ!  ボクとセイラ姉は婚約してるんだからっ!」


 シオンが胸を張った。それはもう堂々と。


「こ、婚約!?」


 リシャールが慌てると、セイラは困ったように頬をポリポリ掻きながら、


「あ~...確かに『ボクが大きくなるまで待っててよ。セイラ姉を守れるくらい強くなるからさ。そしたら結婚しよう』とか言われたような? だから『分かった分かった、期待しねぇで待ってるよ』って答えたような?」


「ほーら、みろっ!」


 シオンはドヤ顔してるが、それは断りの文句だと理解するには彼の年齢では難しいだろう。


「はあ...シオンの気持ちは良くわかりました。安心なさい、セイラはどこにも行かないから。そうでしょ? セイラ」


「あぁ、ちょっくら王都に行って来るだけだ。すぐ帰って来るから心配すんな」


「よろしい。ではシオン、戻りなさい」


 アンジェラにそう言われて、渋々といった感じで頷いたシオンは、最後にリシャールを一睨みしてから部屋を後にした。


「殿下、うちの子がご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございません」


「いえいえ、子供のすることですからお気になさらず」


 ちょっと動揺したことは秘密だ。


「じゃあさっさと行こうぜ。旅の支度は万全だからよ」


 そう言ってセイラはリュックを背負った。

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