第3話 衝撃の事実

「あの...ちょっといいかな?」


 リシャールは思わずそう声を掛けていた。


「なんだい、アンタら!? 冒険者には見えないけど。こっちは取り込み中なんだ。話なら後にしておくれ!」


「いや、その少女に用があるんだ」


「えっ!? 私!?」


 未だマチルダに吊らされているセイラが、ビックリした顔をする。


「僕の名はリシャール。この国の第2王子だ。今日は聖女の情報を求めてこの街にやって来た」


 すると周り中から「王子だってよ」「聖女って誰がだ?」といった囁きが聞こえてくる。


「情報提供者は?」


 マチルダが問い掛ける。ちなみにやっとセイラは下ろして貰えた。


「ジェフさんって人からだ。なんでも凄い回復魔法の使い手が居るという情報だった。もしかしたら、その娘じゃないのか?」


「ジェフねぇ。アイツが言ったならこの娘で間違いないだろうさ」


「やっぱりか。さっきの回復魔法は凄かった。君、セイラといったね? 僕と一緒に王都の神殿まで来てくれないか? 是非とも『聖女認定の儀』を執り行って欲しい」


「ハンッ! やなこった!」


 セイラはあっかんべーと舌を出した。


「そうか、それじゃあ早速我々と...って、えぇっ!? こ、断ると言うのか!?」


「あったり前だろ! 誰が聖女になんかなるもんか! そんな堅っ苦しいもん死んでもゴメンだね!」


 リシャールは焦った。取り付く島もないとはこのことを言うのだろう。


「い、いや、まずは聖女と認められるかどうかだけでも試して貰いたいんだ。それでもダメか?」


 するとここで黙って見守っていたマチルダが助け船を出した。


「セイラ、やるだけやってみたらどうだい? タダで王都観光が出来ると思えばいいじゃないか?」


「マチ姉、でも...」

  

 セイラはまだ渋ってる。


「それともここでアタシの説教3時間コースを受けるかい?」


「うぐっ...わ、分かったよ...行けばいいんだろ...」


 セイラが渋々頷く。リシャールはホッと息を吐いた。


「良かった。それじゃあ早速...」


「ちょっと待った。家に連絡入れねぇと」


「あぁ、確かにそうだな。済まない。焦り過ぎた。僕からご両親にご挨拶させて貰うよ。君の家はどこだい?」


「孤児院」


「へっ!?」


 リシャールの間の抜けた声が漏れた。



◇◇◇



 セイラに案内されてやって来たのは、教会が支援している孤児院だった。孤児院は教会の裏手にあった。木造の2階建てで築年数はそれなりに経っていそうだが、良く手入れされているようで、古ぼけた印象はあまりなかった。元々は修道女のための寮だったらしい


「母ちゃん、ただいま~!」


「セイラ、お帰り。あら? そちらの方々は?」


 セイラが嬉しそうに駆け寄って行く先には、年の頃は40代半ばくらいだろうか、穏やかに微笑むシスターが一人佇んでいた。


「王子様」


「へっ!?」


「シスター様、お初にお目に掛かります。私はこの国の第2王子、リシャールと申します。本日は先触れもなく訪問した無礼をお許し下さい」


「まぁ、第2王子様でしたか! こちらこそ気付かずに申し訳ございません。私はこの孤児院の院長を務めております、シスター・アンジェラと申します」


 リシャールとアンジェラが挨拶を交わしていると、


「セイラ姉ちゃ~ん!」


 セイラに気付いた子供達の元気な声が響いた。


「ただいま~ お前ら、ちゃんと良い子にしてたか?」


「ちゃんと先生のお手伝いしてたよ~」


「しっかりお勉強もしたよ~」


「ねぇ、セイラ姉ちゃん、遊ぼうよ~」


「遊ぼ~!」


 あっという間に子供達に囲まれてしまったセイラが、困ったようにアンジェラを伺うと、


「セイラ、遊んでらっしゃいな。私は殿下をオモテナシしてますから」


「良いの!? じゃあ、お前ら、行くぞ~!」


「わ~い!」


 セイラが子供達に引っ張られて行くと、アンジェラがリシャールに向き直り、


「殿下、どうぞこちらに。お茶をお入れしますわ」


「ありがとうございます」


 院長室に通されて、アンジェラが手ずから入れた紅茶を嗜んでいるリシャールに、アンジェラが尋ねた。


「それで第2王子殿下が何故この街に? セイラと一緒に居たことにも何か関係があるのでしょうか?」


「実は...」


 リシャールはこれまでの事を掻い摘んで説明した。


「そうでしたか...セイラが聖女になるかも知れないと...」


 アンジェラは複雑な表情を浮かべた。


「何か問題でも?」


「いえその...お恥ずかしい限りですが、あの娘は口も態度も悪くて...女の子なんだから直しなさいと何度も言い聞かせているんですが、中々直らず...私の教育が至らず申し訳ない限りです...」


「あ、いえ、それは...」


 確かに口も態度も誉められたもんじゃない。あの年頃の娘にしてはちょっと子供っぽ過ぎるというか。そこでリシャールはふと気になって尋ねてみた。


「ところで、セイラはまだ孤児院で暮らしているんですか? あの年頃になったら普通は出て行くものなんじゃ?」 


 するとアンジェラはビックリした様子で、


「あら? セイラから歳を聞いていらっしゃらないんですか?」


「え、えぇ、まだですが、15、6歳くらいなんですよね?」


「いいえ、あの娘はまだ10歳です」


 リシャールはこの日1番の衝撃を受けた。

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