第4話 感謝しかない

「おい、さっきから何を見ているんだ」


「!」


義弟と初対面した翌朝、朝食前からジュード様が書庫にいると聞いた私は、こっそりとその姿を見守っていた。

本棚の陰から。


けれど五分も経たないうちに盗み見ていることがバレてしまい、不機嫌そうな義弟に睨まれてしまった。


「こそこそ隠れるなんて気持ち悪い」


「すみません……」


かわいい義弟を困らせてしまった。もしかして、「誰かに見られている!?」と恐怖を感じたかもしれない。

もうちょっと覗き見のスキルアップをしてからチャレンジすればよかった。


しょんぼりした私を見て、ジュード様は焦り始める。


「そ、そんなところにいなくても、本が読みたいなら好きにすればいいだろう!?僕はおまえがどうしようが、これっぽっちも興味なんてないんだからな!」


あぁ、朝から神々しい風が吹き抜ける。

わざわざ気を遣わせないために辛辣な言葉を放つなんて……!


たっぷり寝たのに、倒れて永眠しそうになるところをどうにか踏みとどまった。


私は邪魔しないようにスススっとそばへ寄り、にやにやしてお礼を言った。


「ありがとうございます」(ツンデレいただきました)


「っ!」


ジュード様が持っていた本を、私はじぃっと観察した。

随分とむずかしい、国際情勢の本だった。


「おい」


「はい」


「なぜ僕の持っている本を読もうとしている」


不機嫌そうな声。

私はじっと碧色の目を見つめて言った。


「好きにしていいとおっしゃったので」


「自分の好きな本を読めと言ったんだ!なんだよ、まさかこの本が読みたかったのか!?おまえが読んでおもしろいと思うような本じゃないぞ」


ジュード様が何を読んでいたのかが見たかったのです。

でもそんなことを正直に言えば警戒されると思い、笑顔でごまかした。


「気分を悪くなさったなら、謝ります。私のことはお気にせず、どうかごゆっくりどうぞ」


やっぱり、真剣な顔で本を読む姿を遠くから見たい。

それにこれ以上神々しい風を浴びてしまうと、朝食がお腹に入らなくなってしまいそう。


そそそと後ろ足で下がった私は、ぺこりとお辞儀をしてまた本棚の陰に隠れた。

書庫から出たと見せかけて、扉も一度開け閉めして再びこっそりジュード様のことを観察する。


「「……………………」」


困ったわ。

今度も気づかれている気がする。


残念だけれど、今日はもう諦めるしかないみたい。


「はぁ……」


どうせバレているんだ。

堂々と扉を開けて出て行こう。


――キィ……。パタンッ……。


少し早いけれど、食堂へ行っておじさまとおしゃべりするのもいいかも。

ジュード様のことが聞けるかもしれないし。


背筋を正して貴族令嬢らしく廊下を歩く私は、もう義弟のかわいさにメロメロだった。




そして、朝食後。

部屋に戻った私の机に、分厚い本が一冊置いてあるのを見つけて、私はさらに悶絶する。


『これならバカでも読める』


走り書きのようなメモと、国際情勢について簡単に書かれた初歩の学習本だった。


ジュード様はどうやら、私があの本を読みたくてまとわりついていたと思ったみたい。


人をバカ呼ばわりするわりに、読めそうな初歩の学習本をわざわざ探してくれるなんて優しさが溢れてますよぉぉぉ!!


もう本からも神々しい光が溢れているような気がしてきた。


「神様、ありがとうございます……!!」


おじさまにもおばさまにも、ジュード様にも感謝しかない。

彼らのために、私に一体何ができるだろう?


これは真剣に恩返しについて考えなくては。

分厚い本を胸にぎゅっと抱き締め、私は自分にできることを一生懸命考えるのだった。

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