第3話 もう限界です
ジュード様と私、おじさまで楽しい食事の時間を過ごし(とはいえ義弟の口数はゼロ)、入浴を終えたらおじさまの部屋で集まってお茶をした。
なんていうほのぼの家族。
おばさまは「私も一緒に行きたい」と言っていたそうだけれど、残念ながら風邪を引いてしまって三日遅れで来ることになっている。
「ジュード様、ゲームがお強いのですね!すごい」
大人がやるようなカードゲームで、お菓子を賭け合う私たち。
おじさまも弱くはないんだろうけれど、ジュード様の一人勝ちだった。
褒めるとまんざらでもない雰囲気になり、ちょっと照れて顔を伏せるのが堪らない。
どうしよう。
本格的にこの子を愛でたくなってきた。
ううん、一緒にいなくていいの。陰からそっと、ばれないように見つめたいわ。
「お菓子、いっぱいですね~」
ジュード様の前に積み上がったクッキーを見てそう言えば、彼はちらりと私を見て言った。
「こんな時間に焼き菓子を食べたら、太って醜くなるからな。ルーシーは食べない方がいい」
「こら、ジュード。レディになんて言い方をするんだ」
いえ、おじさま。
私はまたサァッと神々しい風に吹かれました。
こんなことを言いつつも、私が見ていない間に私のお皿にクッキーをそっと戻してくれたんです。
さっき手元のカードを見ていたら、ジュード様の手が私のお皿にクッキーを……!!
ううっ!!!!
心臓が痛い!!!!
勝ちすぎて申し訳ないからって、こっそりお皿に戻してくれるなんて!
優しさが漏れ出てますよぉぉぉ!!
それを悟られないために、わざと嫌な言い方をするなんてかわいすぎるわ!!
ニコニコと笑ってジュード様を見ていると、またふいっと目を逸らされた。
「すまないね、ルーシー。いつもはもっと物分かりがよくて素直な子なんだが、初めて会う姉に緊張しているのかもしれない。人見知りかな?」
「ふふふ、いいんです。ジュード様が来てくれただけで、もう胸がいっぱいになるくらい十分です」
ええ、本当に。お腹も心もいっぱいです。
まだ初日でこれなんだから、この先の二十日間をどう過ごせばいい?
だらしなく頬を緩める私を見て、ジュード様は嫌そうな顔で言った。
「父上だけでなく、俺にまで媚を売っても何もしてやれないからな!そ、そんなに気を遣ってもいいことなんてないぞ!」
「っ!」
これは直訳すると、気を遣わずに自然に言いたいことを言ってもいいんだぞという意味ですね!?
なんてかわいいの!?
どうしよう。
座っているのに立ち眩みがしてきたわ。
私がふらりと上体を傾けたのを見て、ジュード様は慌てて手を伸ばし支えてくれた。
「おいっ!どうした!?」
「失礼しました。元気です。ただ、あまりに眩しくて眩暈が……」
「おまえの部屋、どれだけ暗いんだ?この部屋の灯りは普通だぞ」
眩しいのはあなたです。
気を引き締めなければ、そう思った瞬間。私は最後の一撃を見舞われた。
「おかしなやつだな」
拳で口元を押さえ、クッと笑ったその姿に、私は今度こそ意識が遠のきそうになる。
まずい。
義弟の殺傷能力が高すぎる。
胸に手を当て、もう今すぐ死んでもいいと目を閉じていると、ジュード様がはぁとため息を吐いた。
「眠いんだろう?遊びはここまでだ、もう部屋へ戻れ。僕は父上ともっとむずかしいゲームをするから邪魔だよ」
「邪魔……」
ええ、ええ、そうですよね!?
私も思っていた。私の存在が邪魔だって。
陰から見たい。扉の隙間からこっそり眺めたい。
でもそんなことして、万が一にでも見つかって軽蔑されたらと思うととても実行できなかった。
それに、もう限界。
今日自分がツンデレが好きだって気づいたのに、いきなり摂取しすぎて、もう限界なの……!
「わ、わたくし部屋へ戻ります。おやすみなさい」
こみ上げる熱いものが口から出そうな気がして、口元を右手で押さえて俯きながら急いで部屋を出る。
おじさまが「あ~あ、泣かせた」と嘆いていたような気がするけれど、立ち止まったら絶対にこの感動が溢れ出てしまう!
息を止めたまま部屋まで走った私は、勢いよくベッドにダイブして枕に向かって叫ぶのだった。
「があぎひー!!!!」(かわいいー!!!!)
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