第2話 ―異界【レクト】―
◆
空がある。
晴れた空だ。しかし色は紫がかった青だった。
周りに見えるのは半壊した建物や住居。
そこは、異界【レクト】だった。
◆
光とともに現れたのは、少年と少女だった。
その姿は先ほどまでとは違く、制服ではなくそれぞれファンタジーの物語に出てくるような恰好をしている。少年は全身を黒いコートで包み、少女も黒く、金のアクセントが入った制服をモチーフにした術者服を着ていた。
「ふー。ついたな、大丈夫だな?花ざ……じゃなくて『ムイ・ブロセム』」
……うむ、いちいち名前を言い換えるのはめんどくさいな。
能力を使う術者の中で、現実世界以外の世界では術者名を呼ばなければいけないというルールがある。本名が分かってしまうと現実世界で襲われる危険性があるからだ。他にもルールはたくさんある。
「もーっ!ばれちゃったらどうするのー?『クンゲツ・イリヤダスト』さん」
「大丈夫だ。この辺りに術者はいない。それよりも邪神だ。同時に二体出現した」
「うん、両方とも巨獣級ビーストクラスの第五層級邪神だね。まあ私たちだったら平気だよ。私たちが負けたらこの世界は終わっちゃうもの」
花厳が言っていることは大げさではあるが、間違ってはいない。
我々術者が死に、邪神を止めることができなくなった場合邪神が現実世界に顕現し、人々を殺す。それを起こさせないのが我々術者の使命だ。
二人は話しながらすでに走っていた。
「お喋りはここまでだ。ほら、見えてきたぞ……」
目線の先には二体の邪神がいた。片方は黒い蛇のような形をしており、顔には触角と青い目が十個ある。もう片方は青いドラゴンで、通常のドラゴンと違うのは翼が四枚あることだった。
「じゃあ俺は蛇のほうを殺る。ムイはあっちをやってくれ。」
少女は頷き、二人の背中に青色の魔法陣が展開し、二人は飛んだ。
◆
少女は空を飛びながら龍のもとへと行き、見下ろした。
「ごめんね。あなたを殺さないと向こうに帰れないの――だから」
そして少女は笑う。
その一瞬を見逃さなかったのか、龍は魔法陣を同時複数展開し青色の弾丸を発射した。
ギャイイィィンッ
美しい音が鳴り響く。
龍には弾丸が当たったように見えたのだった。
勝負はついたと。
だが彼女の正面には桜色の魔法陣があった。
弾丸が当たった様子もなく、龍を見下ろしながら言う。
「ごめんね。話しているときに邪魔をされるのは嫌いなの。それにあなた、そんなちっぽけな魔法、私に効くって思った?うふふ」
彼女は笑った。しかしその笑顔は見た者を凍り付かせるような冷たい笑顔だった。
そして彼女は右手を前に出す。
「動かないでね」
いつの間にか展開されていた龍の足元の若葉色の魔法陣から龍に巻き付くように大樹が生え、その地面に根を張る。龍は動こうとするが、樹が邪魔で動けない。
「それは第五層の魔法、『
彼女はまた笑った。
「覚えておいてね?私の二つ名は≪
彼女の周りに桜色の魔法陣がいくつも展開され、それぞれの魔法陣に桜の花びらの形をした槍が生まれ、龍のほうを向いた。
「私は魔法最高術者部隊〈七天魔軍〉第五天魔、『ムイ・ブロセム』よ」
と言った瞬間に魔法陣から槍が放たれる。桜の花びらを散らしながら槍は龍に向かって進んでいった。
それはまるで儚く散りゆく桜のように美しく、綺麗だった。
◆
二人は無人教室にいた。
「お前……ずいぶん楽しそうだったな」
「ううん、ちょっとムカついただけ――。私が≪満開の咲≫って呼ばれてる理由わかるでしょ?」
「おーこわいこわい。実際俺よりお前のほうがつええんじゃねーの?」
彼は言った。見ると彼らは制服に戻っていた。
彼女は大げさな身振りで笑いながら否定した。
「ははは、そんなことないよー漆葉君。実際漆葉君は第七天魔で史上最強の術者って呼ばれてるじゃーん」
彼らは無人教室を出て、授業を行っている教室へと戻っていった。
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