第1話 ―始まり―
◆
空がある。
晴れた空だ。しかし色は紫がかった青だった。
そして周りに見えるのは半壊した建物や、住居だった。
そして、空がある。
耳をすませば、そこには風の音と、人ではない〈なにか〉の叫び声、そして美しい音がする。
その空間は重く、のしかかってくるような空気を持っていた。
それはいつの頃からか、一部の者たちからこう呼ばれていた。
異界【レクト】と。
◆
机に突っ伏して一人の生徒が寝ている。回りの生徒はもちろん、教師も彼の居眠りには気が付いてた。はじめのうちは見逃していた教師だったが、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、少々イラついた、だが感情を押さえた声で回りの生徒に声をかけた。
「あのさ、――誰かそいつ起こしてくんない?」
教師は眉間にしわを寄せる。チョークを持つ手は小刻みに震えている。あと少し力を入れようとすると、粉砕してしまいそうだった。
教師の声に隣の席の女子生徒が、堂々と居眠りを決め込む男子生徒に声をかける。
「ねえねえ……漆葉君、うーるーはーくん。起きてよー?怒られちゃうよ?」
甘くゆったりとした声に気付いたのか、起こされた男子生徒が眠そうな目をこすりながらナチュラルに言い放った。
「うーん、ダイジョブだよ……。先生なんて、第一層程度のカス魔法で『ぷちっ』だから……むにゃ」
「うわあ、あいつイタイわぁ」
「厨二だ厨二ー」
教師に向けられた傲慢この上ない言葉に、周りの生徒が一斉に湧いて、漆葉をはやし立てる。そんななか、天然なのかノリがいいのか……
「うわあだめだよ漆葉君!あなたの魔法は第一層でも十分強いからホントに『ぷちっ』ってなっちゃうよ?」
「花厳さん、別に乗んなくてもいいんだよ?」
「そうだぜ花厳ィ、こいつ頭よくて信用性あるけどこういうことに関してはアレだぞ?な?」
「え……あ、うん。そうだね、うん」
流石に漆葉の言葉にキレたのか、額に青筋をたてた教師の右手から、白いチョークが放たれた。
矢のように真っすぐに飛んだチョークが彼の額に当たり、硬い音を立てて砕け散る。
「うわあ!先生やっちゃったよ!」
「見てるこっちが痛い!逆に漆葉が『ぷちっ』ってなるわ!てかなったか、ははっ」
ざわめきとともに、皆が彼に注目する。半分は痛がる漆葉の姿を期待してのことだ。
しかし、彼は痛がる様子もなく、無傷だったのだ。そして彼は笑みを浮かべ、
「へっ、そんな物理攻撃、第一層の防御魔法で無効化できるぜ」
とのたまった。
「だ、だめだよ漆葉君!魔法は人前で使っちゃダメって約束じゃない!」
「平気だよ、へーき!別に驚くことじゃ……っと」
そこで突然言葉を切り、漆葉が一瞬真剣な顔で花厳をみつめた。彼の視線に華厳も真剣なまなざしで応えて小さくうなずく。
「せんせー……頭痛がしてきたっス……。保健室行っていいっすか?」
彼の言葉に、教師は苦笑いする。
「チョークは当たらなかったけど、バチでもあたったんでしょー。花厳、ついて行ってあげて」
「はーい」
のんきな声で花厳が返事をして、許可も待たず教室の扉を開けたて教室をでてゆく漆葉の背を追いかけていった。
◆
彼らは足早に無人教室まで行った。そして真剣な顔をして花厳を見る。
「レクトで
「うん、すぐに分かったよ。最近第五層以上のは出てなかったからね。油断してた。」
彼女はちょっと焦った顔をして頷く。
「じゃあ、すぐに跳ぶぞ。
魔法陣、展開。術式構成。リンク構築――オッケー、行くぞ」
二人の足元に水色に光る魔法陣が展開され、そして彼らは言った。
「「転移、【レクト】!」」
魔法陣が光った。そして彼らは光に包まれ、光が消えた時にはすでに、その姿はなかった。
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