五指より溢れる

 私には才能があると思っていた。

 誰にも負けないモノを持っていると信じて疑わなかった。

 表彰台は当たり前。あそこは私の見慣れた景色だった。

 けれど今はどうだ。

 私は海を知らぬ井の中の蛙だった。

 冷や水に顔を浸けてやっと気が付いた。

 束の間の夢だった。

 顔を上げて、目が覚めて、また顔を沈めた。

 このまま、理想に溺れて死にたいと思った。

 けれど人は息継ぎをしてしまう。

 落差、温度差に目眩と吐き気がする。

 何時かの私は素晴らしき才児だった筈だ。

 それがどうだ。

 もう、下から数えた方が早いような気すらする。

 五指から溢れた私は、所詮凡人なのだ。

 掌一杯に貯めていた自信もエゴも、指の隙間から溢れ出た。

 私はこれから、何を目指して生きていけばいいのだろう。

 分からないまま、天井を見つめている。

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