酔狂三昧
殺人鬼と呼ばれて気持が良い。何が鬼なのかは見事に解せぬが。
既に十余を殺した。此なる手は紅に染みて其の儘。
某も人なる物故、己が欲へは手が伸び行く。
蟻も人も犬も木も皆平等に生く者、もとい逝く物。であれば平等、是世の理。然し世間は皆某に指を指す。所詮は虚飾の如き秤、小さき物程軽んじられよう。或る道で蟻を幾ら潰せど、数が居るからと軽んじられる。某思うに、数ならば人もそう言えた物で有るまい。
何故人殺を続けるか某に問う輩を見る。連ねた投書の写しを街で見掛ける。然りとて某も彼奴等に、人斬りと某の相違について問うてみたいものである。己が正義を標榜せしめど、所詮其奴も人殺しの範疇を逸脱せぬ。汝等の正義と其奴等の正義が異なれば、其奴等は唯悪人にしか成れぬ。某にても同なる事也。帥の快楽と某の其れは感ずる所が異であるのだ。
汝に理解出来ぬ事象も有ろう、然しながら某、其方達の娯楽も理解出来なんだ。根元から造りが異なって居るのかは定かでは無い。人の頭を開けども、某の目に映るのは夥しい朱のみなのだから致し方無い。
誰々が映画を見る様に、誰々が文芸誌を読み漁る様に、某も人を殺す。そう云えば、今朝の新聞紙の小欄に某の話が書かれていた。「計画性も無くふらりと人を殺す、実に酔狂である。酔狂三昧なる彼奴に罰が当ることを願う」と。
酔狂三昧、成程存外良い響である。酔狂なる男、か。ふふ。
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