第1章:第9話(完) アリスの初出勤

 「ゴーストワーカー、レベル・ブラン、アリステア・ガイルーク!本日付で第3管理課に着任致しました!宜しくお願い致します!!」

 「フフ、ようこそガイルークさん。あ、これからはアリスちゃん、って呼ぶわね。よろしくアリスちゃん」

 「あ、はい、よろしくですフローレスさん」

 「私の事も、フローラでいいわよ」


 宮殿東のウェルナ棟3階の第4オフィスに入っているのがアリステアの配属された第3管理課である。

 元気な声で入室した彼女を1人詰めているフローラが出迎えてくれた。


 「ごめんなさいね、今ちょうど皆、天空のラウンジの各エリアに定期巡回で出払っているものだから…皆が帰って来てから追々紹介するわね」

 「天空のラウンジの定期巡回って、警備課の役割じゃないんですね」

 「ええ。そもそも警備課のパトロールと管理課の巡回は意味合いが違うの。私達管理課のゴーストワーカーは、霊魂が滞在する天空のラウンジの管理が主な業務の一つだから、毎日見て回る必要があるのよ」

 「僕は、どこを回ればいいんですか?」

 「あなたにはまず管理課の事務作業から覚えて貰う事になると思うけど、まぁその辺りはあなたの担当上司に訊いてちょうだい」

 「え?フローラさんが僕を指導してくれるんじゃないんですか?」

 「なに?私の指導が受けたいの?」

 「あ、いえ…その何て言うか、てっきりここに配属されたら、フローラさんの下に就くと思っていたんで…」

 

 少し寂しげなアリステアの表情から、フローラは彼女の真意を汲み取った。


 「…そうね、キャスカさんの遺志を継いだのなら、彼女の希望だった私の下で働いて貰うのがいいのかもしれないわね…。でも、安心して。あなたの担当の上司の人は、私よりもとても良い人よ。まぁ、その人も現場に復帰し立てだから戸惑う事もあるかもしれないけど、腕は私が保証するわ。…あ、来た(笑)」

 

 ニヤリと笑うフローラの目線の先には、見慣れた顔があった。無精髭と長すぎる黒髪を無造作に後ろで括り煙草を銜えているガラの悪そうな人物。


 「ラルフィエルさん…?」

 「よ~来たかアリステア!ヘヘ、よろしくな」

 「は、はい…」

 「ラルちゃん、どこほっつき歩いてたのよ、もう皆巡回してるのに」

 「ちょっと、野暮用でな。ほい、お土産」


 ラルフィエルがおもむろにフローラに手渡した花に、アリステアは見覚えがあった。


 「またソウルフィールド・クロスに行ってたの?もしかして…ファラさんは今日も?」

 「…来てたよ。俺に何が出来るって訳でもねーが…」

 「ラルフィエルさん…」

 「お前も来てたんだってな、エリザベスの墓に」

 「あ、はい。あの…ラルフィエルさん、またソウルフィールド・クロスに行ってたの?って…?」

 「あ~…それは、まぁ暇な時だけな」

 「アリスちゃん、ラルちゃんはね、わざわざ毎日セメタリ―・ガーデンまで行って煙草を吸ってるんですって。ファラさんの様子を見に。ねーラルちゃん?(笑)」

 「…墓の前で一服すると気持ちがいいんだよ。あそこ、だだっ広いしな」

 「ラルちゃんでも照れるのね、かーわいいっ」

 「フローラお姉さま(怒)、復帰し立ての同僚を弄るのはそろそろ止めてもらっていいですかね~?」

 「はいはい。じゃ、アリスちゃん、後の事は彼に訊いてちょうだい」


 ニヤつくラルフィエルとは対照的にギョッとするアリステア。どうやらフローラと一緒でただの同じ課の同僚という認識でいたようだ。


 「ら、ラルフィエルさんが僕の担当上司…?」

 「なんだぁその顔は?俺がお前の上司で不服そうだねぇアリスちゃあぁ~ん?」

 「ゲホゲホゲホッ!ちょ、ちょっと煙を噴き掛けるのは止めて下さい、ラルフィエルさん!」

 「これからは先輩とお呼びなさいアリスちゃあぁ~~ん」

 「ゲッホゲホ!!だ、だから~!!」

 「お前も吸う?」

 「吸いません!!もう…」


 ラルフィエルの執拗な弄りに半ば怒りながら自分の椅子に腰かけるアリステア。これからこんな感じで働いて行くのかと思うと、深い溜息が漏れた。

 だが、視線を自分の左胸に遣ると途端に気持ちが和らぐ。


 「でも…頑張るよ、エゼ…」


 エリザベスに語り掛ける様に胸ポケットの一輪の花を撫でて、微笑んだ…。

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ゴーストワーカー ~ボヤきの国のアリス~ 黒埼千夜 @areph0911

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