第1章:第8話 ソウルフィールド・クロス

 「広いなぁ…!まぁ常に霊園自体が自己拡張してるって言うし、もう生きてるみたいな物だよね」


 昇天式から1週間程が経った日の朝、アリステアはエルトゥワース宮殿中央のセリア棟を抜けた『セメタリ―・ガーデン』に来ていた。広大な敷地を有する墓地の更に奥まった所に入ると、そこには一本の大樹があった。

 彼女はとてつもなく大きいその存在感に圧倒されながら、木の幹に記されている墓碑を読み上げる。


 「『ソウルフィールド・クロス』…これか」


 殉職したゴーストワーカー達が葬られている場所は、ソウルフィールド・クロスと呼ばれている。セメタリ―・ガーデン奥の大樹を目印に、今までの全ゴーストワーカー達の墓標が並ぶ。

 その中の一つに、エリザベスの墓があった。どうやら先客がいたようだ。


 「…あれ?あ、ファラ、さん…?」

 「…アリステアさん」


 会釈をするも唐突な再会だった為に言葉を失うアリステア。彼女が来る事を予見していたファラが先に口を開いた。


 「ラルフィエルさんが教えてくれたんです、エリザベスさんのお墓の場所を」

 「え、あの人が?」

 「【無理強いはしないが、エリザベスの冥福を祈ってやってくれないか】って。それとここに来れば、あなたにも会えるんじゃないかと思って」

 「ファラさん…もしかしてあれから、毎日来てたんですか?」

 「ええ…。あなたに謝らないといけないと思って……いや違うわ、只、謝りたかったんです」


 エリザベスの墓の前に跪き、祈りを捧げ、ファラはアリステアの方に向いて頭を下げた。


 「本当にごめんなさい…愚かな私のせいで…」

 「ファラさん…」

 「あなたとエリザベスさんは親友同士、だったのよね…?」

 「はい…」

 「アカデミーを卒業したら同じ課で働こうって言ってたとか…?」

 「誰から聞いたんですか…?」

 「フローレスさんよ。そんな大切な人を、私は…」

 「もう、責めないで下さい。エゼが…彼女が悲しみます」

 

 ファラの顔を覆った両手から涙が零れた。アリステアがそんな彼女の肩を優しく掴み、慰めた。


 「【ゴーストワーカーは霊魂に寄り添う存在】です…。エゼは最後に僕にそう言ってくれたのだと思います。身を以って霊魂に寄り添う事を教えてくれたんです。…エゼの…おかげです…」

 「アリステアさん…」

 

 アリステアはギュッとファラの手を両の手で握り、切り出した。


 「僕…この前、アカデミーの卒業式があって、今日が配属初日なんです」

 「そうなのね、おめでとう」

 「ゴーストワーカーになった僕を、エゼに見せたくて。でも、【ネクタイ曲がってるわよ】とか【ちょっと寝癖寝癖!!】って声が今にも聴こえてきそうです(笑)」 

 「アリステアさん…月並みな言い方だけど…あなたなら立派なゴーストワーカーになれると思うわ」

 「そ…う、ですかね?うん、でも…そうなります、必ず」

 「あなたに救われた私が言うんだから、間違いないわよ」

 「ありがとうございます。…じゃあ、僕、行きますね?」

 「ええ。行ってらっしゃい」


 アリステアはファラが持って来ていた花束から抜いた一輪の花を胸ポケットに差し、微笑みながら立ち去った。

 一歩一歩踏み締めるような足取りで、一度もエリザベスの墓を振り返らずに…。

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