第1章:第3話 霊魂難民【ファラ・ルー】

 「初めまして。ゴーストワーカーのエリザベス・キャスカです」

 「同じく、アリステア・ガイルークです」


 第6会議室でのゴーストリフジーズ全9名への個別カウンセリングは、長机3台を入り口から入って右、奥、手前の三方の壁に沿って並べ、その机一つに二つの仕切りを作って実習生2名にリフジーズ1名を一組とした合計9組で簡易的に対面で行う、という形を取った。入り口から左側の壇上には監督するフローラとラルフィエルが座っている。

 アリステアとエリザベスはやや緊張しながらも笑顔を絶やさずに対象のリフジーズに挨拶をした。


 「…何を話すのよ?」


 その女性のリフジーズは2人に顔を背けたまま、挨拶などせずに話を切り出した。


 「ファラ・ルーさん。今回のこのカウンセリングは皆さんが天からの裁きを待つまでの間、安心してこの天空で過ごして貰える為の注意事項をお伝えするものなんです」

 「あ、そう…」

 「なので良く聞いて…聞いてます?」

 「聞いてるわよ、早くして」

 「…分かりました、じゃあ速やかに簡潔に済ませますね。えー『S・ケースファイル:NO.78325、ファラ・ルー、享年32歳、2018年6月28日15時51分、病死。死因:子宮頸癌』これに間違いはないですね?」

 「なに?そんな事を確認してどうするの?ゴーストなんちゃらって、暇なの?」

 「形式的な物なので確認してるだけですよ。暇でこんな事してるんじゃありません」


 ファラの非協力的な態度に少しエリザベスの語気が荒くなりそうだったが、

 

 「あ、ファラさん、お茶どうぞ。これ美味しいんですよー」

 

 険悪な雰囲気を察したアリステアが割り込み、2人に紅茶を振る舞った。会議室中央に用意された豪華なケータリングの料理の中から、いつの間にか3段のティースタンドまで机の上に置く素早さに2人は面食らった。


 「ちょ、ちょっとアリス」

 「いいから、僕に任せて」

 「…なによアンタ」

 「皆さんが滞在する『天空のラウンジ』内にはね、4ヶ所のカフェがあるんですけど、その内の一つ、『アフティマージュ』で出す紅茶が僕、大好きなんですよ~!このカウンセリングのケータリングの中にアフティマージュのスペシャルブレンドがあるってさっき知って、実はすごく楽しみだったんです」

 

 2人を尻目に1人紅茶を楽しむアリステアを呆れ顔のファラを窺いながらエリザベスが肘で小突いた。


 「なに楽しんでんのよ、真面目にやって」

 「いいじゃない、もっと気楽にやろうよ気楽に。はー…美味し」

 「気楽って、あなたね…」

 「ファラさんもどうぞ。クッキーやスコーンもありますよ~。僕も貰おっと」

 

 ファラは、アリステアのわざとらしい馴れ馴れしさに嫌気は差していたものの、鼻孔をくすぐる紅茶の芳しい香りに思わず手が伸びた。


 「…美味しい…!」

 「でしょ?ファラさん、生前は紅茶がすごく好きだったって知ったんで喜んで貰えて良かったです」

 「アリス…いつの間に…」

 「エゼも飲んで。コーヒー派でも絶対気に入るから」

 「…はいはい」


 軽く溜息をつき、紅茶を口に含むエリザベス。予想外の美味しさにびっくりする彼女の反応を面白がるアリステア。そしてそんな2人の仲の良さを見せつけられたファラが自然と微笑んだ。


 「あいつら、なんでティーパーティーやってんだよ…(笑)」

 「でも、良いやり方よ。ほら、リフジーズの彼女も笑ってるじゃない」


 壇上で3人のやり取りを眺めていたラルフィエルとフローラも苦笑していた。

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