復活。

こんどうよしひで

第1話

 JR目白駅から車で十分、小高い丘の上にそびえたつ地上三十階建ての研究所。

 我が国が誇る国立遺伝情報研究センターである。

 その一室で、尾長教授が、化石のDNAから超古代のある生物を復活させようとしていた。

 助手の若者が隣の実験室からかけこんでくる。

 二メートルの巨体が肩を揺らして息が苦しそう。

「教授、もうすぐです」

 教授が自室から実験室へ移動し、顕微鏡をのぞく。

 助手がごつい手でプレパラートを動かす。少し位置がずれて。

「ガラス板がずれてるずれてる。爪が当たってる」

 教授が助手の手もとを見て。

「角田君、きみは不精だな。指の爪くらいまめに切りなさい」

「はあ」

「最近、食生活が乱れているそうじゃないか。鳥山君から聞いてるぞ。

 肉ばかり食べて体調は大丈夫かい? 」

「はあ。もとは肉がだめだったんですが、上京してから肉のおいしさに目覚めまして。

 先生がいつもおっしゃってるじゃないですか。何ごとも挑戦だって」

 鳥山君、とは、今年の春に入学したばかりの大学院生の女の子。博士の研究所でバイトしている。さっそく助手の角田君が付き合っているらしい。手の早い奴だ。


「いよいよだな」

「教授、こんなものを復活させてよいのでしょうか」

「せっかくDNAが取り出せたんだ。今さら、後戻りはできんよ。科学にたずさわる者、前進あるのみ」

「教授、細胞分裂を始めました」

「・・・美しい。細胞はDNAの乗り物だな」

 教授は、顕微鏡の中で繰り広げられる神秘の光景にうっとりした。

「彼らは太古の昔、自ら生み出した核エネルギーの暴走を止められずに滅んだ。

 こんどは正しく生きるんだよ。・・・人間くん」

「教授、人間くんたちは、こんどは私たちのペットということでいかがですか」

「二度と同じ過ちを繰り返さないためには、それがいいかもな」

 窓から夕陽が差し込み、ふたりのシルエットを長く伸ばした。

 それは、彼らの遠い先祖の姿をほうふつとさせた。

 教授の小ぶりな手が助手の腕をつかんで。

「湿疹が出てるじゃないか。もう肉食はやめなさい。

 私はティラノサウルスだから大丈夫だが、君はもともと草食のステゴサウルスじゃないか」

 

                                〈了〉

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