【第9章】飲んでも飲まれるな!命がけの酒飲み対決!

第46話【強くなりたい・・・。】

 東の里に着くと、時雨しぐれはすぐに東家の時雨しぐれの部屋に氷雨ひさめによって運ばれた。時雨しぐれの傷は思った以上にひどいものだった。ホタルは印を結ぶと手の平からは柔らかな黄色い光が放たれるその手をゆっくりと時雨しぐれの傷口に当てる。


 すると、ゆっくりと時雨しぐれの傷口は塞がっていき、とうとう全てが何事も無かったかのようになった。それと共に苦しそうに呼吸していた時雨しぐれの息づかいも元に戻った。ホタルはゆっくりと時雨を起こし、口に解毒剤を含ませる。氷雨ひさめ連雨れんうはその隣で心配そうにその様子を見ていた。


氷雨ひさめ

「ホタル・・・。時雨しぐれは?」


【ホタル】

「傷口は塞いだから、出血で死の危険にさらされることはないと思うわ。けれど、ここに来るのにかなり出血をしてしまっていたし、伊賀の忍との戦いで大量の毒が体に流されてしまっている。回復するのには、少し時間がかかるわね。」


連雨れんう

「にぃちゃん、ごめん。オレのせいで・・・。」


 それから、3日間時雨しぐれは、目を覚ますことは無かった。その間、泡沫うたかたは、芦立あしだて城と明石城あけいしじょうに事の顛末を伝えに行った。また、ネネ、一平いっぺい、ホタル、氷雨ひさめの四人は交代で、時雨しぐれの看病をすることにした。


 しかし、連雨れんうだけは誰とも交代せず、寝ずに時雨しぐれの側に居続けた。弟の面倒を見ながら、時雨しぐれの看病をする連雨をホタルは心配し、休むように促した。


 しかし、連雨れんうは心ここにあらずと言った様子で曖昧に返事をすると、すぐに時雨しぐれの看病に弟の世話に戻ってしまう。


 ホタルは、時雨しぐれの母である卯月に相談し、時雨しぐれが起きるまで連雨れんうは何を言っても時雨しぐれの、側を離れないと考えた。しかし、せめて連雨れんうの負担を減らして上げようと赤ん坊の世話をかって出る。


 そして、時雨しぐれが寝ている布団の隣に連雨れんうのための布団を引いてやった。しかし、連雨れんうは、時雨しぐれが起きるまで一度も、その布団に横になることは無かった。


 連雨れんうの心の中は、不安と悲しみと後悔が渦巻いていた。憎しみで我を忘れ父親と母親を殺した男を殺そうとし、気がついた時には、名付けの親になり、自分達を救おうとしてくれた恩人に重い怪我を負わせてしまった。


連雨れんう

「・・・にぃちゃん、ごめんなさい。オレどうしたら良い?にぃちゃんに、オレ、どうしたらいい?・・・どうしよう。このままにぃちゃんが死んじゃったら、オレのせいだ。にぃちゃん、・・・ごめんなさい。・・・ごめんなさい。」 


 連雨れんうの涙が頬をつたって、畳に落ちた。すると頭の上に暖かい何かがそっと置かれた。


時雨しぐれ

「・・・連雨れんう。もうそんなに泣かなくて大丈夫だ。ありがとう。ずっとワタシの看病をしていてくれたんだね・・・。」


連雨れんう

「にぃちゃん!にぃーちゃーん!!!」


 時雨しぐれはゆっくりと起き上がると連雨れんうはワッと泣きで、時雨しぐれに飛びついた。時雨しぐれはそんな連雨れんうの背中を優しくポンッポンッと叩く。


時雨しぐれ

「・・・辛かったね。本当に辛かった。よく頑張ったね、れん。お前は、誰よりも辛い経験をしたんだ。だから、きっとお前は誰よりも強く優しい男にきっとなる・・・。」


 にぃちゃんの目が開いている・・・。にぃちゃんの声が聞こえる・・・。あぁ・・・よかった・・・。連雨れんうは心からほっとした。その後、時雨しぐれが自分に、何かを言っていたような気がしたが、連雨れんうの意識はここで途切れてしまった。


 ホタルは、そっと部屋に入り、連雨れんう時雨しぐれの隣に敷かれた布団に寝かせた。


時雨しぐれ

「・・・ホタル、いつもすまないね。」


【ホタル】

「・・・いいの。私は、時雨しぐれ様が生きていてくれたら、それでいい・・・。でも、だからこそ、本当は危ないことして欲しくない。時雨しぐれ様だけじゃない。


 氷雨ひさめ様にも、ネネちゃんにも、一平いっぺい様にも危ないことをして欲しくない・・・。でも、もうこの里に敵が来るのも時間の問題だわ。


 他里は、この東の里を狙っている。他里から私達の里を守るため、そして、氷雨ひさめ様、ネネちゃん、一平いっぺい様、そして、時雨しぐれ様を守るために、私は忍になったの。・・・今度の任務では、私が必ず時雨しぐれ様を守るわ。」


 ホタルは、笑う。


時雨しぐれ

「・・・ワタシも、こんなボロボロにならなくても、ホタルや皆を守れるようになるよ・・・。」


 そう言って時雨しぐれも笑った。

 


 それから、3日後。時雨しぐれは、布団から出ずに座ったっ状態で太ももの上に乗るカラスを撫でていた。そこへ一平いっぺいとネネがやって来る。



一平いっぺい

時雨しぐれ、体調はどうだ?」


時雨しぐれ

「・・・そうだな。まだ本調子ではないけど、だいぶ良くなったよ。体の痺れももうない。」


一平いっぺい

「そうか。良かったぜ。時雨しぐれももう、良くなってきたし、オイラ達は一度、清流の村に帰ろうと思うんだ。ずいぶんと長い間村に返っていないからな・・・。」


【ネネ】

「うん・・・。」


時雨しぐれ

「そうか。」


 しかし、そこへ泡沫うたかたがやって来る。


泡沫うたかた

「バーカ。今、帰ってどうするんだ?まだ忍術もろくにつかえないくせによ。」


【ネネ】

「師匠!」


一平いっぺい

「まぁ・・・そう言われれば・・・」


泡沫うたかた

「そうだ。忍術だ。良いか。忍が扱う術にも色々な種類がある。良い機会だおさらいするぞ連雨れんう氷雨ひさめとホタルを連れて来い。」


 時雨しぐれにお粥を持って来た背中に弟の冷雨れいうを背負った連雨れんうに、泡沫うたかたは、氷雨ひさめとホタルを連れて来るように言った。



 暫くすると連雨れんうは、氷雨ひさめとホタルを連れて戻って来た。


時雨しぐれ

れんれいの面倒見ていて大変なのにすまないな。ありがとう。」


連雨れんう

「ううん。にぃちゃん、オレは、部屋から出てた方がいい?皆、これから大切な話をするんだろう?」


 氷雨ひさめは、連雨れんうの頭をくしゃくしゃ撫でると言った。


氷雨ひさめ

「いいぜ、ここにいればよ。お前だけ外にいるなんて、つまらないだろう?なぁ、時雨しぐれ?」


 時雨しぐれは、静かに頷くと言った。

 

時雨しぐれ

「気を使わなくていい。ここにいて大丈夫だよ。そうでしょう、師匠?」


泡沫うたかた

「好きにしろ。」


 そう言われ、連雨れんうはその場に正座した。



泡沫うたかた

「いいか、この世にある全ての物には気というものが流れている。忍の扱う忍術とは、その気を使って戦う術のことだ。」


氷雨ひさめ

「この世の全てには、気が流れている」


一平いっぺい

「気が・・・。」


 その場に重い沈黙が降りる


泡沫うたかた

「まったく・・・何言ってるんだか全然分かりません。みたいな顔をしてるんじゃねぇ。一平いっぺい氷雨ひさめ。ブッ飛ばすぞ。」


 二人は、目をパチクリパチクリさせていたが、泡沫うたかたの言葉でハッとする。


一平いっぺい

「いやいやいやっ!オイラはちゃんと覚えてたぜ!こいつと違ってぇー!」


 一平は氷雨を横目でみながら言った。それに対し氷雨は、キレる。


氷雨ひさめ

「はぁ?お前ぜってぇー。分かって無かっただろう?嘘つくんじゃねぇーよ。この猿が!」


一平いっぺい

「はぁー?猿に猿って言われたくねぇーよ!このバカ猿!」


 すると、時雨は二人をなだめるように言う。


時雨しぐれ】 

「・・・まぁまぁ。二人ともまずは師匠の話を聞こうよ・・・。って聞いてないな・・・。」


 二人は、時雨のことが見えていないのか、言い争いを続けている。


【時雨】

「・・・やれやれ。ワタシからしたらどっちもサ・・・。」


 二人はくるっと時雨しぐれの方を振り向くと・・・。


氷雨ひさめ

時雨しぐれ・・・。お前、今なんて言った?」


時雨しぐれ

「あ・・・いや・・・。聞こえてたんだね・・・。」


 時雨は手を横にふる。


一平いっぺい

「ふふふ。氷雨ひさめ、ここは一時休戦だ。分かってるな?」


氷雨ひさめ

「あぁ。分かってるぜ」


 二人は、じわりじわりと時雨に近づく。


時雨しぐれ

「え!ちょっ、まっ!」


 おらー!!!と、二人は時雨しぐれに飛びついた・・・ところで、泡沫うたかたがきついゲンコツを氷雨ひさめ一平いっぺいの頭に入れた。


     ・・・グハッ・・・


 痛みで悶絶する二人をよそに泡沫うたかたは冷めた口調で言う。泡沫うたかたは咳払いをすると、言った。


泡沫うたかた

「人の話は最後まで聞け。」


 二匹の猿が、はーい。と、苦しそうに返事をすると、ようやく騒ぎが収まった。


泡沫うたかた

「忍術には、大きく分けて5つ種類がある。」

気然忍術きねんにんじゅつ

精神身体型忍術せいしんしんたいがたにんじゅつ

実体化忍術じったいかにんじゅつ

気刀忍術きとうにんじゅつ

妖忍術ようにんじゅつ(妖術ようじゅつ)


 この5つだ。気然忍術とは自然の中にある、火、水、土、雷、風などの気を使う忍術だ。


 次に精神身体型せいしんしんたいがた忍術にんじゅつは、己の中にある気を使う気術だ。身体方面では、体を頑丈にしたり、俊敏にしたり、又、精神面では、相手に自分の気を送って暗示をかけたりすることが出来る。


 実体化じったいか忍術にんじゅつも、同じように自分の中に流れている気を使っているが、こんどはその気を具体的な忍具の形にして戦う。


 そして、気刀きとう忍術にんじゅつは、もともとある忍具や動物に自分の気を入れて戦う術だ。忍具の切れ味や、防御力が高くなる。

  

 最後に妖忍術ようにんじゅつ、別名、妖術ようじゅつだ。これは、ネネやホタルのような巫女しか使えない術で、気で結界をはったりや、予知をしたりすることが出来る。


 大まかに分けるとこの5つになるが、また、これらを組み合わせて使う術もある。」


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