第43話【弟の泣き声】

ーーーーーーーその頃、時雨しぐれ連雨れんうはーーーーーーーーー



 連雨れんうは、時雨しぐれに自分の家族のことについて話た。連雨れんうの両親は、忍びでありながらもとても慈悲深い人達なのだそうだ。そのため、いくさがある度、罪もない人々が死んいくことに心を痛めていたそうだ。


 しかしそれでも、ここ伊賀いがの里で自分達を育てていくため、必死で任務にあたっていたのだとことを教えてくれた・・・。そしてそんな中、弟が誕生した・・・。


 連雨れんうにとっては、始めての弟だった。


 弟が生まれてから暫くは、家族4人、本当に幸せな時間を過したのだという。しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。両親は師走しわすの命により、再び、いくさへと駆り出されてしまった。まだ赤ん坊の弟と共に残された連雨れんうは、親代わりとなって、面倒を見ていた。


 そんな時、連雨れんうが牢屋でワタシの監視をすることになったそうだ。


 だが・・・。ワタシの情報を引き出そうとするためだけに、赤ん坊を人質に取るだろうか・・・。


 そんなことを思いながら、屋敷の中を詮索して行く・・・



 はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・


時雨しぐれ

「はぁ・・・ やれやれ、はぁ・・・ なんて広い屋敷なんだ。」


 時雨しぐれは、額に流れる汗を、拭う・・・。毒が体中に回っているのか、視界が歪み、体が重い・・・。そんな時雨しぐれに、背中にいる連雨れんうは、心配そうに問いかける。

 


連雨れんう

「・・・にぃちゃん。大丈夫か?」


時雨しぐれ

「・・・うん。大丈夫だよ。連雨れんう。お前こそ大丈夫か?家族のことが心配でたまらないだろう?」


 時雨しぐれは、連雨れんうに心配をかけまいと、笑って見せた。


連雨れんう

「うん。父ちゃんも母ちゃんも優しいんだ。二人は、どんな敵にも、情けをかけなかったことはないし、女の人や子供には、絶対に手を出さなかった。戦わないで解決できることなら、必ずそうしたし、いつもそうであって欲しいって願ってた。皆には、お前の両親は伊賀の恥だって言われるけど、俺はそうは思わない。父ちゃんも、母ちゃんも優しくて強い、俺の誇りだ。」


 連雨は自慢気に言う。


時雨しぐれ

「・・・そうか。お前のご両親は、良いご両親なんだな。」


 時雨がそう言うと、連雨れんうはうん。と自信に満ちた笑顔で頷いた。しかし、そんな話をする最中も、時雨しぐれの体は悲鳴を上げていた。


 伊賀いがの蜂に仕込まれていたであろう痺れ薬は、時雨しぐれの体の動きを鈍らせ、その体を動かす度に時雨しぐれの体力を削った。


 しかし、幸運なことと言うべきか、不思議なとこに屋敷の中はまるで人がいる気配がしなかった。 


 そして、人の気配のしない屋敷の中をどんどん進んで行くと、オギャーオギャーと赤ん坊の泣く声が聞こえた。


連雨れんう

「にぃちゃん!俺の弟かも知れない!上の階から聞こえた!」


 連雨れんうは叫んだ。


時雨しぐれ

「よし、分かった!」


 時雨しぐれは、屋敷の上へと繋がる階段を登る。しかし、登る途中で時雨しぐれの痺れた体が上の階で起こった悲惨な現実を感じとるかのように寒気がした。



    ・・・血の臭い・・・



 階段を登るとそこに広がるのは、二人の忍の亡骸と、その二人の忍が守るようにして抱かれた赤ん坊の姿だった。そして、その亡骸の前には、血に染まった刀を持つ師走しわすの姿だった。


連雨れんう

「父ちゃん!!!母ちゃん!!!」


 連雨れんうは、叫び、時雨しぐれの背中から降りようとする。しかし、それを時雨しぐれが自分と連雨れんうを縛り上げたヒモと、時雨しぐれの鍛え上げられた腕がそれを阻止した。


時雨しぐれ

「ダメだ!連雨れんう、動いてはいけない。今、行けば、お前も殺されてしまう。それに、お前の父上と母上はもう・・・。」


連雨れんう

「そんな・・・。」


 時雨は、連雨れんうが、力なくぐったりするのを背で感じる。


うああああああああああああああああぁああああああああぁああああああああああああああああああああぁああああああ!!!!!!


 連雨は部屋が震えるほど、泣き叫んだ。しかし、そんな連雨嘲笑うかのように目の前の忍びは、言う。


師走しわす

「・・・やれやれ、まったく忍が敵を前にして、感情を出すなんてな・・・。お前も・・・そして、お前の親クソだ。忍として生きる価値もない・・・。ゴミは処分するのが、普通だろう?入らないものをいつまでとっておいても、部屋は汚れるだけだしなな・・・。」


時雨しぐれ

「ふざけんな!」


 時雨しぐれは、叫んだ。そして、師走しわすを睨み付けると、背中にいる連雨に優しく触れる。


時雨しぐれ

「良いか・・・。連雨れんうの両親は、心優しい素晴らしい忍だった。心を持たないお前にそれが分からないだけだ!」


 時雨は、部屋中に響き渡るような大声を上げて、そう叫んだ。しかし、師走は表情1つ変えずに言う。


師走しわす

「ふ・・・心を持たない?・・・では、逆に聞くが、心を持たなければならない理由はなんだ?心、情、優しさなんてのは、忍をダメにする。」


 すると、連雨れんうは袖口からクナイを取り出すと、時雨しぐれと自分とを結んでいたヒモを切り裂いた。そして、それと同時に師走しわすに斬りかかる。



ああああああああぁぁああああああああああああぁああああああぁああああ!!!!うああああああぁああああああああ!!



 師走しわすはその一連の行動を虫けらを見るような冷めた目で見る。


時雨しぐれ

連雨れんう!よせ!!」

 

 時雨は叫んだ・・・。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





 一瞬の出来事だった。我にかえると自分の目の前にあったのは、今の今まで自分を守ってくれていた少年の背中だった。自分の手に自分を守ってくれた人の真っ赤な血が、クナイをつたって自分の手に落ちてくる。


 自分が師走しわすに向けて切りつけていたはずのクナイは少年の背中に突き刺さっていた。この時、始めて、自分のやってしまったことを自覚した。


・・・連雨れんうはクナイから手を離す。




・・・オギャー・・・オギャー・・・オギャー・・・


   赤ん坊の泣き声が響き渡った・・・。


 時雨しぐれは、背に連雨れんうのクナイを受けながら、連雨れんうを殺そうとした師走しわすの一刀をとっさに腰から引き抜いた木刀で防いでいた。木刀と刀が噛み合って、小刻みに二つの刀の刀身が震えている。


 苦しげに顔を歪める時雨しぐれとは対象的に、師走しわすは不適に笑う・・・。


  ・・・グハッ・・・ 


 口から、吐き出された赤黒い水・・・。血・・・。



 時雨しぐれは、自分の背中と口からおびただしい量の血が流れるのを感じながら、背後で力が抜けて座りこんだ連雨れんうに語りかける。


時雨しぐれ

「・・・・・・れん・・・、失ったものは、帰っては来ない・・・。だけど、今、あるものはその手で守ることが出来るんだよ・・・。


 死を恐れず、最期の最期まで、お前の弟を必死で守った、お前のご両親のように・・・。れん・・・、お前の両親は、敵討ちなんて望んで、ない・・・。


 二人が願っているのは、お前とお前の弟が笑っている未来だ・・・。お前には、心がある・・・。優しさもある・・・。お前の両親と同じように・・・。弟を守れ!!!連雨れんう!!!」


 時雨しぐれは、叫んだ。少年を再び立ち上がらせるために・・・。


 連雨れんうは、何かに突き動かされたように弟の元へと走り、弟を抱き抱えた。師走しわすがその後を追おうとするが、連雨れんうの方へ気がとられた一瞬のすきを見て、時雨は、体を思いっきりひねり師走しわすの顔面に重い蹴りを入れた。


【時雨】 

「お前の相手は、ワタシだ!!!!」


 師走しわすは、時雨しぐれのあまりの一撃に体勢を崩してたおれこむ。それを見た時雨しぐれは、一平特性の煙玉を投げつけた。


 煙が消えるとそこには、すでに三人の姿は無かった。師走しわすは、やれやれと立ち上がろうとするが、視界がボヤけて上手く立ち上がることが出来ない。


 その時、自分の太ももに針が刺さっていることに気づく。時雨しぐれは一撃を自分に入れる際に自分に射し込んでいたのであった。


 騒ぎを聞き付けた、師走しわす伊賀の忍達が師走しわすの元へ駆けつける。刺さった針を抜きながら、師走しわすは低く冷酷な声音で言った。


師走しわす

「竜に選ばしモノを捕らえろ・・・。赤子とガキは殺せ・・・。」



 しかし、その時だった。


ドッカーーーーーーーーーン!!!


 大きな爆発音がする。何事だろうか・・・。城の外にいる忍び達は、海が抑えているはすだ・・・。すると、慌てた様子で一人の忍が入って来た。


【伊賀の忍】

師走しわす様、大変です!他国機密情報庫が、爆破されました。」

 

 なるほど・・・この部屋に来る前に、あの少年・・・爆弾を仕掛けていやがった。しかも、情報が全てと言われる忍びの国の他国機密情報庫を爆破するとは・・・。


師走しわす

「ふ・・・ふふふふ。なるほど・・・。」


 師走しわすは、不適な笑みを浮かべた。


師走しわす

「流石は龍に選ばれし者ということか・・・。だが、あの体で・・・しかも二人のガキを庇いながら、逃げられまい・・・。」


 師走は楽しげに笑った。

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