第40話【 奪われた竜の力 】

 煙が晴れるとそこには誰もいなかった。


【ホタル】

「そんな・・・。時雨しぐれ様・・・。」


一平いっぺい

「俺達を守るために・・・。」


氷雨ひさめ

時雨しぐれ・・・。」


 三人は、呆然とその場に立ち尽くす。

 すると、後ろから声が聞こえた。


泡沫うたかた

「お前達・・・。怪我はないか・・・?」


 振り向けば、そこには泡沫うたかたの姿があった。そして、その後ろにはネネの姿も・・・。泡沫うたかたは神妙な面持ちをしていた。ホタルは、泡沫うたかたを見て、今までの経緯いきさつを話した。


氷雨ひさめ

「・・・師匠・・・。」


泡沫うたかた

「お前達に・・・言わなくてはいけないことがある・・・。」














・・・・。シャリン・・・シャリン・・・シャリン・・・シャリン・・・錫杖しゃくじょうをつく音。真っ白な白い着物をまとった若い男が真っ暗な森の中をゆっくりと歩いている。その男が歩く度に真っ白な白の着物が美しく舞っている・・・


 あぁ・・・、またこの夢か・・・そう思った瞬間、時雨しぐれは目を覚ました。体が・・・重い・・・、本当なら寝込んでいるところをホタルとネネが作ってくれた薬で、無理矢理起きて来たため、その反動があるのだろうか・・・?時間的に見ても、そろそろ薬の効き目が切れる頃だ・・・。


 そんなことを思いながら、ふと、周りを見渡せば、自分は円形の石造りの祭壇の中心で祭壇の端から何本も自分に伸びる縄に繋がれていた。祭壇には、何か術式のようなモノが描かれており、10数人の白い着物を羽織った人間が祭壇の回りを取り囲んでいた。


 そして、その中から、師走しわすが姿を現した。


師走しわす

「おはよう・・・。竜に選ばれしモノよ・・・。」


 師走しわすは、不適に笑いながら時雨しぐれを見る。


時雨しぐれ

「竜に選ばれしモノ・・・?何を言っているんだ?」


師走しわす

「お前は・・・。何も知らないんだな・・・。」


 そういうと、師走しわすは静かに語りだした・・・。

昔から、もとの国には、各地に様々な神が存在していた。その神の数は数え切れず、神と人は共存して生きてきた。神は、その土地に住む人や生き物を昔から守っていた。しかし、神は時代と共に力を亡くしていくモノも多くいた。



 しかし・・・。神が力を無くしたにも関わらず、その土地に災いが降りかかろうとしている時など、己ではどうにもできない悪しきことが起きようている時、神は、人の中から一人、自分の力を分け与えるモノを選ぶ。そしてそのモノに自分の力を託し、その悪しきことを止めさせようとするのだ。


 そして・・・と師走しわすは、時雨しぐれを指差した。


師走しわす

「お前は、あずまの里を守る水神すいじん天泣竜てんきゅうりゅうに選ばれ、その力を分け与えられた少年だ・・・。」


 時雨しぐれは、何を言っているのかと、そう思った。

しかし、師走しわすは続ける・・・。


師走しわす

「神に選ばれモノは、母親の腹の中にいる時にはすでに、神に選ばれている。そして、この世に生まれて来た時、その髪や目の色は普通の人間とは違った色で生まれてくることが多い・・・。」


 時雨しぐれは、言葉が出ない・・・。自分は今まで、普通の人間だと信じてきた。今だってそう信じている。しかし、・・・。あの時・・・。


師走しわす

「今まで、おかしいと思ったことはないか?普通の人とは異なる髪と目の色・・・。動物の言葉が分かり、圧倒的な人知を越えた能力・・・。


 それに、神に選ばれた人間は、子供の頃、体が弱くすぐに体調を崩す・・・。それは、体の中を流れる神の力に体が対応しきれてないからだ・・・。


 お前、今まで自分は他の人よりも体が弱いと感じたことはないか・・・?それに・・・。


 年齢が上がるに連れて、その中の力は強くなっていき、無意識に制御していた力の制御が難しくなっていく・・・。その証拠として、殺されそうになった仲間を見て、お前の中の力が暴れ出した。しかし、お前・・・自分一人で自分自身を止められなかっただろう?」


 待て・・・ワタシは・・・・・普通の人間ではないのか・・・?時雨は困惑を隠せない。



 すると、師走しわすは問いかけてきた。苦しいだろう?怖いだろう?と、その苦しみや恐怖を俺が取り除いてやろうと・・・。ワタシが託された竜の力と言うのは年齢と共に少しずつその神から供給されており、師走しわすの話からすれば、完全に供給が終わる前ならば、その神の力を奪うことができるという・・・。


師走しわす

「お前の力・・・俺に渡せ・・・。あずま時雨しぐれ。俺かお前を普通の人間にしてやるよ・・・。まぁ・・・。母親の腹の中にい時から、竜の力は注がれているから、その力は全てお前の一部となっている・・・。それを無理矢理に引き剥がそうとするば、どうなるか・・・。そうだな、命の保証はできないな・・・。」


 師走しわすは不敵に笑ってそう呟いた。


時雨しぐれ

「悪いが・・・。この力、お前に譲るつもりはない・・・。お前に渡せばどうなるか、目に見えているからな・・・。」


 時雨しぐれは、そう言った。息が切れる・・・。こんな縄・・・。いつもならすぐに引きちぎれるはずなのに、体がいうことを聞いてくれない・・・。


師走しわす

「まぁ・・・。お前がどう思っていようと、お前の力はこの伊賀の国のために、渡してもらう・・・。」 


  師走しわすがそう言うと、祭壇の周りに立っていた10数人の白い着物を着た人達が術を唱え始める



・・・竜神力りゅうしんりき・・・人力じんりき・・・剥離はくり・・・少年から、今新しい宿主の元へ・・・・・・



・・・体が熱い・・・。時雨しぐれを繋いでいる縄が真っ赤に光る・・・。時雨しぐれの体から青い気が漏れていく・・・。

  

時雨しぐれ

「ああああああああああああ!!!!うぅ・・・。」


時雨しぐれ

(なんだ・・・。体の中から何かが沸き上がって来る・・・。)


 空が、突如として真っ暗になり、ゴーゴーと風が雨なり声を上げた。強い雨がその場一帯に降り始める・・・。


 時雨しぐれにつけられた縄は、まるで時雨しぐれの命を削りとるかのように、時雨しぐれから放たれた青い気を吸いとっていく。


紫雲しうん

師走しわす様・・・。このままではあの少年、死んでしまいますよ・・・。」


 師走しわすの近くにいた紫雲しうんがそう師走しわすに言う。しかし、師走しわすは特に気にするような素振りも見せず言い放った。


師走しわす

「別に関係ない・・・。むしろ、あいつが死んだことで、泡沫うたかたがどういう反応を見せるか、楽しみだ・・・。」


 時雨しぐれは、もがき苦しんだ。時雨しぐれが苦しめば苦しむほど雨は強く、冷たくなっていった・・・。


 しかし、突然、時雨しぐれは苦しむのをやめた・・・。そして、時を同じくして雨もパッタリ止み、雲の隙間から出た太陽光が時雨しぐれを照らした。


 時雨しぐれは座った状態で、動かない・・・。銀色の髪がみるみるうちに黒髪へと変わっていく・・・。


紫雲しうん】 

「髪の色が、変わっていく・・・。」


 あぁ・・・。また、人を殺してしまった。彼で一体、何人目だろうか・・・と紫雲しうんは、晴れていく空を見ながら思った。紫雲の肩から、一匹の蜂が、空へと飛んで行く。


師走しわす

「ふん・・・。泡沫うたかた、お前の弟子の命は、もらったぞ・・・。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る