第39話【ー 時雨の隠された力 ー】

師走しわすの刀は、三人に目掛けて振り下ろされた・・・。しかし、振り下ろされたはず刃は、三人へと届くことはなかった・・・。


カラン・・・カラン・・・カラン・・・ 


折れた金属の刃が、瓦を跳ねる・・・。


 ほんの一瞬の出来事が、永遠のように長く感じられた。それは、確かに人間だった。しかしその青く光る目はまるで、鬼ように鋭く光り、銀色の髪は、まるで獣の毛のように逆立つ。


時雨しぐれ

「俺の・・・身内から、離れろ・・・。この薄汚い・・・ゲス野郎が・・・。」


 その少年は、紛れもなく誰もが知る、心優しくいつも笑顔を絶やさないあの時雨しぐれの姿をしていた。

殺されそうになった恐怖よりも、時雨しぐれが助けに来てくれた嬉しさよりも、今目の前にいる時雨しぐれの異変に、三人は心を奪われた・・・。



【ホタル】

「しぐれ・・・さま・・・?」


 氷雨ひさめは、驚きのあまり声も出ない・・・。


一平いっぺい

「お、おい・・・。時雨しぐれ・・・?」


 しかし、時雨しぐれはそんな三人の様子に全く気づかない様子で、師走しわすにまるで獅子のごとく襲いかかる。何が起きたのか、一瞬のうちに師走しわすは、数十メートル先まで、吹き飛んでいた。時雨しぐれの手には一本の青い木刀を握るのみ・・・。


一平いっぺい

「お、おい・・・あいつ、まさかあの一本の木刀であいつをあそこまで吹き飛ばしたのか?」


 氷雨ひさめは、何も答えない。ホタルは言い知れぬ恐怖に襲われ、ガタガタと体を震わせた。


 師走しわすは、数十メートル吹き飛ばされたのち、ムクッと立ち上がると、不適に笑った。


師走しわす】 

「やれやれ・・・。化け物が姿を現したか・・・。」


 そう言うと、師走しわすかい紫雲しうんを近くに呼び寄せる。


師走しわす】 

「あいつを生け捕りにして、連れて帰るぞ・・・。」


 師走しわすの命令で、紫雲しうんかいは一斉に時雨しぐれへと刀を向けて走り出す・・・。しかし、時雨しぐれは木刀一本で、紫雲しうんが放ったクナイを弾き返し、かいの体全身を使った渾身の回し蹴りを防いだ。そして、時雨しぐれは二人の腕をつ掴むと思いきり握る。二人は、顔わや歪ませて、悲鳴を上げる。


あああああああああああああああああああ!!


【ホタル】

「し、時雨しぐれ様!」


一平いっぺい

「あいつ、おの二人の腕をへし折る気だぜ!氷雨ひさめ時雨しぐれを止めろ!あいつ、何かがおかしい!おい!」


 しかし、氷雨ひさめ時雨しぐれをただ、見つめるばかりで何も動かない。


 昔・・・。時雨しぐれを見た山賊が、時雨しぐれを見て化け物だと言ったことがあった。俺はあの時、確かに見た目は普通の人とは違うと思っていたが、それはあいつの個性で、普通の奴と何ら変わらないとそう思っていた。ましてや、化け物だなんて思ったことなんて一度もなかった・・・。でも、今のあいつはあるで・・・。



    ・・・化け物のようだ・・・



   でも、あいつは・・・俺の・・・


    誰かの声が聞こえる・・・

  その声は、どんどん大きくなっていく。


 ・・・っい・・・おい・・・おい!!!!!!


  一平いっぺいが、氷雨ひさめの胸ぐらを掴む。


一平いっぺい

「おい!しっかりしろ!てめぇーはあいつの兄貴だろうが!」


 その声で、氷雨ひさめは我に返った。時雨しぐれはまるで獲物を狩る獣のような目をし、うなり声を上ながら、二人の忍びの腕を壊そうとしていた。


【ホタル】

時雨しぐれ様!しっかりして!」


 どういうことなのか?ホタルは、理解が追い付かない。あの優しい時雨しぐれがまるで別人・・・。いや、まるで別の生き物のような・・・。一体何があったのか?でも、一つ分かることは時雨しぐれは自分達が殺されそうになっているところを見て、こんな人が変わったようになってしまった。ならば、自分達がなんとしても、時雨しぐれを元に戻さなくてはならない・・・。


【ホタル】

氷雨ひさめ様!」


 ホタルは、氷雨ひさめを呼んだ。すると、氷雨ひさめ時雨しぐれに体当たりをする。すると時雨しぐれの手は、二人の忍びから離れた。しかし時雨しぐれは、すぐに立ち上がり、師走しわすの元へと引いたかい紫雲しうん、そして師走しわすに襲いかかろうとする。しかし、それを時雨しぐれの家族達は許さなかった・・・。


 右腕を掴む、一平いっぺい・・・。左腕を握るホタル・・・。そして、後ろから取り押さえる氷雨ひさめ・・・。


氷雨ひさめ】 

時雨しぐれ!いい加減目を覚ましやがれ!」


【ホタル】

時雨しぐれ様・・・。私たちはもう、大丈夫だから!だからもう・・・。」


一平いっぺい

「お前!ふざけんなよ!お前がこんなんじゃ!誰が、オイラと氷雨ひさめの喧嘩止めるんだよ?立場が違うだろうが!」


  華奢な体からは、想像もつかないような力で3人を時雨しぐれは、引き剥がそうとし、暴れる・・・。しかし、3人は決っして離すことはなかった。すると、時雨しぐれは徐々に抵抗するのをやめた。


時雨しぐれ

「テメェー等・・・。俺から離れろ・・・。」


 今の言葉は時雨しぐれから発せられたのだろうか?三人は、一瞬自分達の耳を疑ってしまうような低く、そして、恐ろしい声色で時雨しぐれは言った。


 離れていいものか三人は一瞬迷ったが、ゆっくりと離れるすると、時雨しぐれは、木刀を両手で持ち、柄の先端を思いきり自分の額にぶつけた。額からは、血が流れる・・・。


時雨しぐれ

「皆・・・。すまなかった・・・。大丈夫かい?」


 時雨しぐれは、いつもの優しげな光を称えた目でこちらを見てくる。



【ホタル】

時雨しぐれ様・・・。元に戻ったのね・・・。」


氷雨ひさめ

「一体、何があったんだよ・・・。」


 すると、一匹の蜂が飛んで来るのをホタルは見た。しかし、なぜだろう?その蜂はどこか様子がおかしいように感じた。その蜂は、時雨しぐれの首にまで飛んでいき、止まる。すると、時雨しぐれはそのまま倒れてしまった。


【ホタル】

時雨しぐれ様!!!」


 すると、こちらに何かが投げつけられる。辺りは一瞬にして真っ白になり見えなくなる。師走しわす達が、こちらに煙玉を投げたのだった。煙が晴れるとそこにいた時雨しぐれの姿も、時雨しぐれを襲った三人の忍びの姿も消えていた。


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