第38話【・・・振り下ろされた刃・・・】

師走しわす

「そう、あの時・・・。古戦場で会った時、俺はてっきり、泡沫は、俺を殺しに来たんだ思ったさ。しかし、それは違った。あいつは、ただ自分たちの弟子を連れて、古戦場に遠足しに来ただけだった・・・。ガッカリしたよ・・・。あいつは、自分の弟子が、危険ちさらされるのを恐れ、俺に何も手出しして来なかった。」


【ホタル】

「師匠は、私たちを守るために・・・。今すぐにでも斬りかかりたい相手を目の前にしても、顔色一つ変えずに・・・。」


 あの時、泡沫は、何も言わなかった。目の前にいる男が自分の母親を奪った敵であることを言わなかった。私たちを危険から守るため一人で悲しみを背負いこんでいたんだと、ホタルは思った。

ホタルは重い着物を脱ぎ捨てると、忍び装束の姿へと変わる。


一平いっぺい

「なら、師匠の母ちゃんかたき、師匠の代わりにとってやるぜ!」


氷雨ひさめ

一平いっぺい、あいつを挑発するのは、やめろ。あいつ・・・。ヤバイ臭いがする・・・。」

 

 何かの気配がする。三人は辺りに神経を集中させる。風がぴゅーと吹き荒れた。氷雨ひさめが叫ぶ。


氷雨ひさめ

「っ!後ろだ!!!!!」 


 振り返れば、2人の忍びがそこにいた。その2人の忍び達は一斉にクナイやら、手裏剣やらを投げ込んでくる。


【ホタル】

「・・・妖法忍術朱結界ようほうにんじゅつしゅけっかい・・・。」


 ホタルが手のひらを合わせるように印を結ぶと、三人を囲むように半球の赤い結界が現れ、氷雨ひさめ一平いっぺいを守る。


紫雲しうん

「へぇーやるじゃないか。アタイは紫雲しうん。久しぶりにクノイチに会った。今時女が戦場に来るなんて、アンタ、物好きだねぇ~。」


 そういう目の前にいるクノイチは、小さい体に似合わず、派手な化粧をしていた。よく見ればさほど自分と年齢が変わらないように思える。


【ホタル】

「何を言ってるの?あなただって、女の子じゃない?」


紫雲しうん

「確かに・・・。でも、アタイはアンタと違って殺伐とした生き方してるから・・・女の子なんて、可愛い生き物じゃないよ・・・。」


 紫雲しうんは、こちらクナイを手に迫って来る。ホタルは腰から扇子を取り出し、応戦する。


氷雨ひさめ

「ホタルー!!!!」


 氷雨ひさめは、叫ぶが、自分自身にも敵が迫る。


師走しわす】 

「よそ見をするな、東の長男よ・・・。」

師走しわすは、物凄い速度で氷雨ひさめの真横まで行き、蹴りを食らわせた。氷雨ひさめは、その衝撃で数十メートル飛ばされる。



 一平いっぺいは、目の前にいる敵を見据える。目の前にいる敵は、自古戦場にいた自分と同じくらいの少年だった。


一平いっぺい

「お前は・・・。あの時の・・・。」


 あの目・・・。出会ったばかりの師匠がしていた冷たい・・・目・・・。こいつも、今まで沢山人を殺してきたのだろうか?表情が全く変わらない。心が動かないのか・・・?


一平いっぺい

「あの時は・・・名乗ってなかったな。オイラは、

一平いっぺい・・・。お前は・・・」


 一平いっぺいは、言葉を続けようとして、少年は、その言葉を塞ぐように言う。



かい】 

「お前・・・。なんで、泡沫なんかの弟子やってんだ?」  


一平いっぺい】 

「え?」


 予想外の少年の言葉に一平いっぺいは、黙ってしまう。


かい】 

「お前、あいつが何をしたのか、知らないだろう?」


 師匠がしたことなんて、分かっている。全て東に来た時に、話してくれていた。沢山、戦で人を殺して来たこと。その事を言っているのだろうか?


一平いっぺい】 

「あぁ・・・。知ってるさ。戦で沢山人を殺してきたことだろう?」


かい

「いや、そうじゃない。お前達は知らないんだ。あいつが何をしたのか・・・。」



 これは、こけおどしか・・・?一平いっぺいはそう思った。自分の心を揺さぶって、動きを鈍らせるつもりだろうか・・・。惑わされるな・・・。一平いっぺいはそう、自分に言い聞かせた。しかし、かいはそんな一平いっぺいの心を見抜いているかのように言い放つ。


かい

「こけおどしではない・・・。」


 二人の間に長い沈黙が落ちた・・・。



うあああああああああああああああああ!!!!

 ・・・・・・ガッコーン・・・・・・



 かい一平いっぺいの間に落ちた沈黙を破ったのは、氷雨ひさめの悲鳴だった。氷雨ひさめは、師走しわすに圧倒的な脚力によ、蹴り吹き飛ばされ、一平いっぺいの背に思いっきり当たった。


一平いっぺい

「いたたた。テメェー!しっかりしろよ。なにやりてんだい?」


氷雨ひさめ

「うるせぇー!お前だって、敵のこけおどしにやられてただろうが!」


 そんな二人の様子を見て、かい師走しわすはひどく呆れているようだった。かいは、師走しわすの元へ行くと、何かをつぶやいた。


師走しわす

「・・・ほほぅ。なるほど。」


 そう言うと、今までホタルを攻撃していた紫雲しうん師走しわすの元へと退いた。


師走しわす

「喜べお前達。葉姫はもうどうでもよくなったそうだ。どうやらこの城は、俺達伊賀の国に降服したそうだから、わざわざ姫を拐う必要もなくなった。」


 時雨の任務を変わりに遂行できたと安堵したのもつかの間一平いっぺい、ホタル、氷雨ひさめの三人を師走しわすは恐怖へと陥れる。


師走しわす

「だからまぁ・・・。このまま帰るのも、つまらないからな・・・。」


 師走しわすが不適に笑う。その笑みは、三人の体を動かなくさせた。なぜなら、三人は今まで見たことが無かったのだ。あれは・・・人殺しを楽しむ目・・・。殺気とは違う。人を殺すことを心から楽しんでいる目・・・。師走しわすの言い知れぬ狂気が三人を恐怖のどん底へと引きずり落とした。


 ・・・本能が言っている。このままでは殺される。動け・・・。動け・・・。足が・・・動かない。


 師走しわすは、忍び刀を取ると、そのままの笑みを浮かべて近づいて来る。


師走しわす

「泡沫は、どう思うだろうか・・・。自分の母親を殺した男が、今度は自分の大切な弟子達を殺したと知ったら・・・。」


師走しわすは、三人に向けて刀を振り下ろしたのだった。


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