第37話【・・・古戦場の忍び、再び・・・】


昔・・・。まだガキの頃・・・。

こんな絵巻物を読んだことがあった。


 ある里の長になることを夢見る少年が、苦難や試練を乗り越えて、長になる夢を実現する物語。


 その少年は、いわゆる出来損ない、落ちこぼれと言われるような少年で、同じ長候補にあがっていた、いわゆるライバルは優等生。


 何をやっても勝てず、その優等生はその少年ののことを見下し、長になるのは自分だと疑うことも無かった。


 里の人達も、その少年よりもライバルであった少年の方が長にふさわしいと考え、少年のことは見向きもしない。


 しかし、少年は諦めなかった、里の人が認めてくれなかろうと、ライバルに見下されようと、少年は必死に努力をした。勉学に剣術に、誰よりも里のことを考えて、それを実践した。


 そして、最後にはその少年は、ライバルを倒し、里の人達から認められる立派な長になったそうだ。


 俺は、この物語が大好きだった。いつか自分もこの少年のようになりたいと、そう思った。だが、この少年と俺は、違った。 


 まず、最大の敵であったライバルの存在が俺にはいない。本当ならその存在は、時雨になるはずだった。しかし、時雨はあれだけの才能を持ってしても、自らの方が長にふさわしいと言ったことは一度もなかった。


 いつも、優しげに笑って、俺が見るところよりも、さらに先を一人でいつも見ているやつだった。




 ・・・そんなやつに敵うはずがなかった。



 剣の才、里の人からの信頼、そして・・・一生隣にいて欲しいと思った女からの思い。俺が欲しかったモノは全てあいつのところにある・・・。


 なぜ、俺じゃ無かったのか。なぜ、俺ではダメなのか・・・。







  

     だとしても・・・


 




氷雨ひさめ

「イッペイーーー!!!!!!!!!!!!!!」



 氷雨ひさめが、大声で叫ぶと外から何かが丸い物投げ込まれた。氷雨ひさめは、それか投げ込まれたのを確認すると、ホタルを抱えて外へ出、城の屋根の登った。

炮烙火矢が投げ込まれたホタルのいた火矢は、氷雨ひさめ達が脱出してすぐに爆発し、大きな爆音と共に大量の煙がホタルのいた部屋から吹き出した。

 

 ホタルを抱えた氷雨ひさめが屋根の上に登ると、いくつか炮烙火矢ほろくひやを持った一平いっぺいがあぐらをかいて座っていた。


 ホタルを抱えた氷雨ひさめの姿を見て、一平いっぺいは、ヒューと口笛を鳴らした。


一平いっぺい

「お前も、やる時は、やんじゃねぇーか。」


氷雨ひさめ

「うるせぇー。」

氷雨ひさめは、ゆっくりとホタルを屋根へおろした。




 ・・・・・・くくくくっ・・・・・・



 背後から、声が聞こえて氷雨ひさめとホタルは振り向く。そこには、傷一つない師走しわすの姿があった。



師走しわす

「取引は、不成立ってことだな・・・。」


氷雨ひさめ

「お前は、分かっちゃいねぇー。兄弟ってのはお互いにムカつくなって思うところがあるもんだ。そりゃあ、剣術も、能力も、人望も、俺が欲しいモノは全部あいつが持ってる。ずっと俺はあいつが羨ましくてしょうがなかったさ・・・。でも、あいつは、あいつで俺には絶対に分からないくらいに重いの背負ってんだよ。誰だって、何かしら背負って人には言えない苦しみを抱いて生きているもんなんだ。テメェーみたいに、自分の苦しみを他人のせいにして、自分が背負わなければいけないものも分かってないやつに、俺の弟を渡すかよ!」





師走しわす

棣鄂之情ていがくのじょうってか・・・。笑わせるな。お前等がやってるのは、互いに弱い所をなめあってるだけの猫と同じだ。


 目の前にある現実から逃げているだけのただの負け犬に他ならない。そうだ・・・。お前が手に入れるはずのモノはあいつが持っている。気持ちは、分かる・・・。自分に嘘をつくな。俺もお前と同じだ。


 俺の弟も、いわゆる天才と言われる男だった。勉学に忍術、人生でたった一人、愛した女も全てあいつにもって行かれた。この世にあいつという存在があったから、俺という人間の存在の価値が低くなっちまった。


 だから、ある時あいつを殺そうと思ったのさ。しかし、残念なことにあいつは、俺があいつを殺りに行った日、行方をくらませていなかった・・・。そこにいたのは、愛した女とあいつのガキが二人・・・。



 あいつを殺れないなら、あいつの一部を壊してやろうと思った。俺はあいつの女を殺した・・・・・・。|。あの女は本当に良い女だった。ガキに自分の断末魔を聞かせないようにと思ったんだろう。呻き声一つ上げなかった。しかし、やつのガキは感がよかった。


 母親の姿が見当たらないと、外へ出て来たんだな。あの時のことは、よく覚えている。あいつに似て、冷酷で、鋭い目をしていた。あの目に睨まれた時、ぞくぞくしたぜ。いつかコイツは、あいつよりも強くなって、俺の前に現れると確信した。


 そして、あいつより強くなったあいつのガキを殺した時、俺は始めて、あいつに勝つことが出来ると・・・。だから、俺は自分のいた国を抜けて、違う国へ行き、そいつのガキがでかくなって、強くなるのをまったんだ。


 いわゆる放し飼いにした牛を伸び伸び育たせて、一番成熟して、うまくなるのをずっと待っていたんだ。しかし、牛もそこまで、バカじゃなかったらしあ。残念なことにある時を境に、あいつのガキは姿を消した。俺が、殺したくてうずうずしているのに、なぜか俺の獲物はどんどん姿を消しちまう。


 だが、ラッキーなことに、あいつのガキは再び俺の前に姿を見せた。五人のどこの馬の骨かも知れないガキを連れて俺の前にひょっこりとな・・・。」


 


  体中に電気が走ったような感覚に陥る。



【ホタル】

「五人って・・・。」


氷雨ひさめ

「お前が!師匠の母ちゃん殺したってのか!」


一平いっぺい

「だとしたら、あの時・・・。」


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