第34話【葉姫】

お前達には、葉姫ようひめ芦立あしだて城まで護衛してもらう。そう明石城の殿様に言われた泡沫うたかた時雨しぐれは、芦立城に向かって進んでいた。


泡沫うたかた

時雨しぐれ。」


時雨しぐれ

「はい。嵐が近づいていますね。それもかなりの大きさの。」


泡沫うたかた

「芦立城に着くまでに来なければいいが・・・。」


姫を入れたカゴを4人の運び人が肩で抱える。


 そして、そのカゴの両サイドを泡沫うたかた時雨しぐれが守って、山を越える。何時間か歩いた時、大きな橋が見える。その橋の手前で、泡沫うたかたを立ち止まる。



泡沫うたかた

時雨しぐれ、お前は姫様の近くにいてお守りするんだ。」


 一度橋が安全かどうか、見てくると言って泡沫うたかたは、カゴを離れる。


時雨しぐれ

「・・・はい。」


 泡沫うたかたが橋に行ってから、カゴの中の姫はカゴの中にいるのに飽きてしまったのか、竹で出来た幕を開け出て来てしまう。


時雨しぐれ

「姫様、ここはまだ安全では・・・。」



 時雨しぐれは、カゴから出てきた姫を見て驚いた。なぜならその姫というのは、真っ黒な黒髪のオカッパに、丸い目をしたホタルそっくりの姫だったからである。時雨しぐれは、言葉を無くしてまじまじと姫様を見つめてしまう。


葉姫ようひめ

時雨しぐれ殿と言いましたね。わたくしの顔に何かついていますか?」


時雨しぐれ

「い、いえ・・・。」


時雨しぐれは、慌てて目をそらした。すると、その時だった。


泡沫うたかた

「伏せろ!!!!!」


 泡沫うたかたは、突然そう叫んだ。小波が、カァー!と泣き叫ぶ。カゴから出て来た葉姫ようひめに向かって四方八方からクナイが投げつけられたのだ。


葉姫ようひめ

「キャーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 時雨しぐれは、地面を強く蹴り空を舞う、そして素早く腰から刀を抜き取ると、体を後ろへひねり、姫に襲いかかるクナイを洗練された刀さばきで弾き返す。そして、一本も姫の元に辿りつくことなく、敵が投げたと思われるクナイはあちこちに散乱した。


 時雨しぐれは、軽やかに地面に降り立つと、すぐさま葉姫ようひめの元へと行き、姫を背に刀を向ける。


時雨しぐれ

「皆さん、ワタシの後ろから消して前へ出なくてください。」


 家来達は、怯えながらも声を絞り出して、返事をし、葉姫ようひめは黙って頷いた。


 敵の姿はない。森の中に隠れているのだろうか?


泡沫うたかた

時雨しぐれ!罠だ!逃げろーーーー!!!!!」


 泡沫うたかたが、橋の向こうからこちらへかけて来る。すると、時雨しぐれ、達いた崖の上はものすごい音と共に崩れ、谷底目掛けて崩れ落ちる。時雨しぐれは、とっさに皆を助けようとし、4人いた家来達は、時雨しぐれの投げた縄によって、木にくくりつけられ、無事。しかし、姫だけは、縄が届かず、落ちていってしまう。時雨しぐれは、落ち行く岩を蹴り、姫の元へ自分も落ちて行きなんとか、姫を捕まえることに成功し、近くの岩に鍵縄を投げて、落下を食い止めた。


時雨しぐれ

「・・・姫様、ワタシにしっかりつかまっていてください。」


 時雨しぐれは、忍装束の中から、鍵縄を取りだし、落下しながらも途中で木の枝に投げつけ見事に落下を食い止めた。そして、鍵縄をつたってゆっくりと地面へ下り立った。カゴを支えていた人達はなんとか、崖下へ落ちずにすんだようだった。


時雨しぐれ

「姫様、お怪我はございませんか?」


葉姫ようひめ

「・・・はい。大丈夫です。ありがとう。」


 上を見上げると、ひどい爆発音が響き、橋のあったところはひどいもやがかかっていて、何も見えない。しかし、そのもやの向こうでは、戦いが繰り広げられているようで、刀やくないがぶつかる音や、怒号が聞こえる。



 そして、事態は、さらに悪くなって、ごぉーーという雷とともに突如、地面に叩きつけるような雨が降り出してしまう。嵐がやって来てしまったのだ。


 そして、一本の弓矢が鍵縄の縄目掛けて飛んで来る。時雨しぐれと姫様がはっとしたのもつかの間、そのまま綱は切れ、下へと落ちる。



 ・・・・・・バッシャーン・・・・・



 下は川だった。命が助かったと思ったのもつかの間、川は、雨の影響か。激流そのもの水面に浮上しようとするも、激しい川のうねりに邪魔されて、上がれない。


 息がもう、続かない・・・。意識が遠退きそうになる。このままでは・・・。このままでは・・・。











 





       



・・・・・・何かに呼ばれたような気がした・・・。誰だろう?・・・。人の声ではない・・・。獣の声でもない・・・。





・・・・・お前には、ワシの力を既に託してある・・・。





    ・・・・・・誰・・・だろうか?




 時雨しぐれは、遠のきそうになった意識を取り戻す。

・・・川の流れの方向が見える。あっちへ向かえば助かる。時雨しぐれは姫を抱えて川の流れに身を任せかながら、泳ぐ。すると、ようやく水面から顔を出せた。姫を抱いて、川から上がる。洞穴に姫を連れて行き、手近な小枝を集めると、火付け石で火をつけた。何時間たっただろうか、川から上がってから、強くなった嵐が通りすぎて行く気配がない。



葉姫ようひめ

「ごめんなさい。わたくしがカゴから出たばかりにこんなことになってしまいました。」


時雨しぐれ

「いえ。ワタシの力が足らなかったのです。姫様のせいではございま・・・せん。」


そう言いつつ見る姫の顔は、本当にホタルに似ていた。



     ・・・ぐぅ・・・・・・


葉姫ようひめ

「ヤダ、わたくしとしたことが・・・。」


 姫のお腹が鳴り、時雨しぐれはおむすびを差し出した。


時雨しぐれ

「もしよろしければ、食べませんか?ワタシの幼なじみが作ってくれたおむすびなのですが・・・。」


葉姫ようひめ

「まぁ、素敵・・・。わたくし、おむすびなんて、食べたことがありませんの。一度食べてみたかったの・・・。」


 時雨しぐれと姫は、焚き火にうたれながらおむすびを食べる。姫は本当においしそうにそのおむすびを食べていた。そのおむすびを食べる姫を見てもやはり、ホタルにそっくりだった。


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