第31話【ホタルと怪しい夜の森 前編】

師匠の試験に合格して、一年・・・。私達五人は、13才となり、下忍になっていた。試験に合格してすぐ、大月山の小屋で、師匠は、私達に気を忍の術、忍術を教えてくれた。気を使うに術にはいくつか種類があって、私達はそれぞれがそれぞれに合う修行を重ね、いわゆる基本となる術が出来るようになったところで、私たちは下忍になることを許された。


 大きな里に依頼箱を設置し、忍びの仕事を依頼する者は、必要とする仕事内容物や、必要な忍びの人数、待ち合わせ場所、その他にも必要事項を書き記した手紙をそこへ入れる。


 そして、1日に1度小波が空を飛んでその箱に手紙を取りに行くのだ。そして、私達は毎日誰かしら任務で小屋にいない日々を過ごしていた。長い間、6人と一匹で暮らしてきた私は、もうそれが当たり前の生活になっていた。


 しかし、東の里とは違い、世は混沌としている時代のためか、忍び仕事は次々と舞い込む。里の者達に、楽をされてやれると喜ぶ皆を見ると、自分も嬉しくはなったのたが、やはり、心の片隅ではどこか淋しいように感じた・・・。


 忍びの任務は、多岐に渡る。暗殺や、情報収集、暗号解読、人探しに、護衛、その中で私達は人探しや護衛を中心に仕事を受けている。今回も、ある城の姫が他の城に嫁ぐの際し、その護衛を努めて来た。しかしその帰り道、私と時雨しぐれ《しぐれ》様は森で迷ってしまう。真っ暗な森の中を月明かりをたよりに歩いていた。昔、自分の宿命が嫌になって、一人で夜の森に迷子になってから、夜の森は苦手だった私も、忍びになってから、一人で夜の森を駆け抜けることも増えて来た。そのためにか、昔に比べ随分と夜の森には慣れてきたなと思う。


 しかし、この森の夜はなんだか、落ち着かない。不気味な森なのか?と聞かれれば、けしてそんなことはないのだが、どこか普通の森とは違う何かの気配を私は感じていた。私は、前を歩く時雨しぐれに声をかけようとした。しかし、私よりも先に時雨しぐれの方が私に話しかけてきた。


時雨しぐれ

「ホタル?朝からずっと歩きっぱなしだ。少し、休まないかい?」


 時雨しぐれは、いつものように優しい笑顔で言った。


【ホタル】

「う、うん・・・。」


 私は、どこかこの森を早く抜けてしまいたいという思いにかられたが、確かに朝からずっと歩きっぱなしで疲れており、時雨しぐれ様もきっと疲れているだろうと思い、しばし休息をとろうと、木にもたれかかった。時雨しぐれ様も、近くの木に寄りかかると、目を閉じて何やら考え事でもしているようだった。木に寄りかかって、そんなに時間もたたずに、だんだんと眠気が襲って来る。私は自分が思っているようりもずっと疲れていたようだった。うとうととしているうちに、そのまま私は木にもたれたまま眠ってしまった。



 冷たい風が頬にあたる。あれから、どれくらい経ったのだろうか?月はまだ空に浮かび、辺りは真っ暗。すると、遠くの方で縦笛の音が聞こえる。なんだろう?と思い、私は時様雨がいた方を見る。しかし、そこに時雨しぐれ様はいなかった。私は、すぐに飛び起きると、辺りを見渡す。すると、時雨しぐれの背中が見える。どこかへ向かおうとしているようだった。


【ホタル】

時雨しぐれ様ー!どこへ行くのー?」


 私は、時雨しぐれ様の後を追う。時雨しぐれ様が歩いて行く先には、なんだか提灯の灯りが見える。何か行われているようだ。しかし、こんな森の奥深くで一体何をやっていると、いうのだろうか・・・。


 私は、そんなことを考えている間に時雨しぐれ様に追いつく。何も言わす、その場に立ち尽くす時雨しぐれに私は声をかけた。


【ホタル】

時雨しぐれ様・・・。どうしたの?こんなところ・・・はっ!!!!!」


 私は、とっさに自分の口に手をあて、声を潜める。提灯の灯りが見えた時、私は、なにも考えずそこにいるのが人であるということに疑いもしなかった。しかし、私はその安易な考えをしたことを後悔した・・・。


目の前にいる人のような生き物達はなにか、おかしかった・・・。足がないのにも関わらず歩いて行く女の人、白い尾の生えている子供。顔のない人・・・。


 私は、息をするのも忘れて、その場に立ち尽くす。すると、時雨しぐれ様は私の方を見た。この場から逃げるのだと私は思った。しかし・・・。時雨しぐれ様は優しい口調で言う。



時雨しぐれ

「ホタル・・・。大丈夫。だけど、ワタシから離れてはいけないよ。」


 時雨しぐれは、私を見るといつものように笑ってそう言う。私は、彼に何を言われているのか、理解できずその場に固まったまま口をパクパク動かすばかりで、言葉にならない。私が何もできずに固まっていると、その人っぽいモノが近づいて来る。私は、足がガタガタ震えてその場に倒れそうになる。


 しかし、そんなことはお構いなしにその人っぽいモノは近づいてきて、時雨しぐれに話しかける。時雨しぐれは優しく笑いながら、うんうんと頷いている。その者達が時雨しぐれに何を話しているのかは分からない。


 ただ、その人のようなモノ達と時雨しぐれ様が話しているのを見て、怖いモノではないような気がしてきた。時雨しぐれ様は人と話す時と変わらない様子で、そのモノ達に微笑みかけ、その人のようなモノ達も時雨しぐれに何か危害を加えるような素振りは見えなかった。


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