第29話【古戦場の影】

それから2日後、泡沫うたかたは5人とカラスを連れて、東の里から遠く離れた5人が見知らぬ国の森の中に来ていた。道無き道をひたすら進んで行く・・・んな中、不意に時雨しぐれが前を歩く泡沫うたかたへと声をかける。


時雨しぐれ

「師匠、、、。ワタシ達はどこへ向かっているのですか?なんだか、さっきからその・・・。」


 先ほどからか、生臭い臭いが森中に満ちているのを時雨しぐれ感じていた。そして、森の中は東の森とは違いやたらと暗く、鳥や獣の気配がない。今まで感じたことのない嫌な雰囲気かまただよう森・・・。


泡沫うたかた

「・・・。もう少しだ。時期に分かる。」


 しばらくの沈黙の後、泡沫うたかたはこう続ける。


泡沫うたかた

「俺は、お前達になぜ忍びになりたいのかと聞いた。そして、各々が立派な理由を述べてくれたな。・・・だがな、立派な夢とは裏腹に結果はあのざま・・・。いいか。お前達は、甘い。・・・忍になるということがどういうことが分かっていない・・・。皆を守るために忍びになりたいと言った。だが、皆を守るということがどういうことなのかをお前達は知らない。温かい平和な村で育って今、世間で何が起きているのか、まったく知らないでいる。・・・・・・これを、見ろ・・・。」


 薄暗い森の中を歩き続けて何時間になるだろうか?木々の間から突然見えたその場所は、広大な草原だ。しかし、そこは普通の草原では決してなかった。馬や、甲冑を着た何人もの人間が重なるように倒れて、おびただしい量の血を流して辺り草原を真っ赤に染め上げいた。辺りは、消炎と血のにおいで立ち込めていて、今にも吐きそうだ。


 5人は、眼前に広がるあまりの惨状にただただ呆然と立ち尽くす。しかし、時雨しぐれはその幾重にも重なる死体の中で、うめき声をあげる男を発見する。その男は体にいくつもの矢を受け、体中は刀傷だらけ。瀕死の状態だった。時雨しぐれは、とっさにその人の所へと駆け寄る。


時雨しぐれ

「大丈夫ですか!?しっかり、してください!今、手当てを!」


 時雨しぐれはその男をそっと抱き起こすと、ホタルに包帯を持っていないかと、ホタルの方を見やる。

しかし、その時だった。


【ホタル】

時雨しぐれ様!あぶない!」


【男】

「うぁあああああああああ!」


 男は、右腕に握られていた刀を時雨しぐれに向かって突き刺そうとする。時雨しぐれは、とっさのことで、理解が追いつかない。切られる。時雨しぐれは本能的にそう思ったが、その刀が時雨しぐれに刺さることはなかった。額に深く刺さった手裏剣とともにぐったりと力なく倒れる男・・・。一体何が起こったのか?時雨しぐれは、すぐ近くに二人の見知らぬ忍がいることに気がついた。一人は、中年くらいの顔の左額から右の頬にかけての刀傷のある男に、自分と同じくらいの少年がその男の隣に立っていた。



師走しわす

「小僧。こんなところに来ちゃ、危ないぜ?」


 男の忍びと、時雨しぐれと同じ歳くらいの子供の忍びが、時雨しぐれを見ていた。時雨しぐれは、即座にその忍達が投げた手裏剣によって自分は助けられたのだと悟る。くらいの忍に助けられたのだと理解し、自分の目の前にいた甲冑を、着た男はこの忍びによって殺されたのだと知った。


泡沫うたかた

時雨しぐれ。こっちに来い。」

 泡沫うたかたは、今までに聞いたことがないような冷たい口調で言う。時雨しぐれは、その慌てて泡沫うたかたの元へと駆け寄る。


師走しわす

戦火せんかの狼・・・。摂津国と甲賀国の戦、火の戦争の英雄・・・。この半年、お前の消息は不明だと聞いていたが、まさかこんな所で会うとはな。狼が血の臭いに誘われてやって来たのか?と、言いたいところだが・・・お前・・・なんか雰囲気変わったな。残忍で冷徹で、任務で何百もの人を殺してきた血も涙もないお前が今や、子供を連れてピクニックか?戦火せんかの狼だと立派な名を与えられた英雄が聞いて呆れる。ここ半年足らずで落ちたものだ。」


 時雨しぐれは、その二人の忍に目を向ける。師匠と話している、あの忍は一体何者だろうか?師匠がいたという甲賀の忍なのだろうか?それに、隣にいるあの少年は自分達と同じ年ぐらいのはずなのに、出会ったばかりの泡沫うたかたのように冷たい目をしていた。二人の忍が醸し出す、冷たく殺伐としており、何人もの人を殺めてきたような殺人鬼のような異様な気配・・・。時雨しぐれのみならず、その場にいる全員がその異様な二人の忍びに己の背筋を凍らせた。


泡沫うたかた

「・・・俺の弟子だ。」


しばしの沈黙の後、泡沫うたかたが答える。


師走しわす

「お前の弟子?笑わせるな。才能の欠片もなさそうなやつらばかりじゃねぇーか。目を見れば分かる。人を殺ったことのない、腑抜ふぬけた面してやがる。普通、見知らぬ忍びが現れたなら、どんなに弱そうなやつだったとしても警戒をするのが定石。なのに、そいつらぼけーとただ、突っ立てるだけ。見ていて呆れてものも言えねぇーぜ。ただ・・・。あのガキは、凄かったな。お前連れていたあのガキだよ。確か、坂多千年さかたちとせとか言ったか?あの少年は素晴らしかった。若干10才にして、甲賀の七部隊あるうちのの部隊長をやり、その甲賀の生まれでないにも関わらず、剣技は甲賀七忍集で随一と言われ、そして何よりも・・・目が違う・・・。あいつの目は忍でも、侍の目でもない・・・目的のためなら手段を選ばない復讐者の目だ・・・。お前・・・あのをどうした? なぜ・・・一緒にいない?」


 泡沫うたかたは、師走しわすの言葉に一切の同様を見せずに言い放つ。


泡沫うたかた

「・・・師走しわす。俺は忙しい。悪いがお前と話す時間はない。」


師走しわす

「なんだなんだ?冷たいなまぁ、いい。こちらも仕事中なんでね。次会えるのを楽しみにしてるよ、、。あ、そうそう、そこの銀髪のお前。」

 

 不意に話をふられ、時雨しぐれはビクッとする。


時雨しぐれ

「は、はい。」


師走しわす

「助けられておいて、礼も言えないなんざ、忍びというよりもまず人として失格だぜ?」


時雨しぐれ

「す、すみません。助けていただいてありがとうございます。」


師走しわす

「ふん。また、会おうな。戦火せんかの狼さんよ・・・。」


師走しわすは、隣の少年を連れて、その場を立ち去った。泡沫うたかた一行と十分距離をとった後、隣にいた少年に声をかける。


師走しわす

「全く、風変わりな男だ・・・。かい、あいつといたあの銀髪の少年について調べろ。」


かい

「・・・はい。」

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