【第六章】本流の村での年末年始

第20話【予言の巻物と東家の家系図】

    12月31日ー明け方




泡沫うたかた

「さっ。お前ら、出るぞ。」

 

 時雨しぐれ氷雨ひさめは身支度を整え小屋の外に出る。


泡沫うたかた

「お前ら、次にここに来るときは、ホタル、ネネ、一平も来る。だから、修行をさらに厳しくする。そんなもんだから、正月は餅でも食って体をよく休めておけ。それと、これをお前達に。」


 そう言うと、泡沫うたかたは2本の上等な木刀を差し出した。木刀には、真剣と同じようにしっかりとしたつばが取り付けられ、刀身は、一つは、青漆で、もう片方は赤漆で塗られどちらともとても雅で美しかった。


泡沫うたかた

「赤い方は、氷雨ひさめ。青い方は、時雨しぐれだ。この木刀は、俺がビワの木から作った。丈夫で、ささくれができにくいいい木刀だ。大切にしろ。」


 二人は、木刀を腰にさし、嬉しそうに礼を言う。


 早朝に小屋を出て、山を降り終わる時には、お昼時になっていた。そして、もう少しで山のふもとというところで泡沫うたかたは立ち止まる。


泡沫うたかた

「お前達、もうここまでくれば帰れるな?」


氷雨ひさめ

「うん。でも、なんでそんなこと聞くんだ?」


泡沫うたかた

「俺は、よそ者だ。正月ってのはな、家族で一緒に過ごすものなんだよ。俺がいては、余計な気を使わせてしまうだろう。」


時雨しぐれ

「何を言ってるんですか!師匠はもう、ワタシ達の家族です。」


氷雨ひさめ

「そうだ!そうだ!俺は師匠のことぃーちゃんだと思ってるのに!そんな事言われたら、悲しいじゃんか!」


泡沫うたかた

「お、おい・・・!」


 時雨しぐれと、氷雨ひさめ泡沫うたかたの腕を少し強引に掴み、村の入り口まで引っ張る。山のふもとにある東の村の入り口では、ホタルと村の子供達が出迎えに来ており、こちらに手を振っている。


時雨しぐれ

「さぁ、師匠。ここまで来たらもう一人で小屋に戻るのは無しです。一緒に家に帰りましょうね。」


氷雨ひさめ

「そうだぜ。師匠。一人で勝手に小屋に帰ったら、俺と時雨しぐれでまた小屋に師匠を連れ戻しに行くからなー!!!だから、戻ったって意味ないぜ!戻ったら、戻っただけ、俺達は師匠のこと迎えに行くぜ!」


泡沫うたかた

「まったく・・・。しょうがないな・・・。」


 時雨しぐれは、泡沫うたかたの顔を見ると、ほんの一瞬ほんの一瞬だが、普段笑うことのない泡沫うたかたのが笑ったように見えた・・・。村の入り口まで来ると、ホタルが嬉しそうに声をかけてくる。そして、ホタルとともに来たであろう何人もの子供達が時雨しぐれに群がる。



【ホタル】

「お師匠様、時雨しぐれ様、氷雨ひさめ様、お帰りなさい。」


【子供1】

時雨しぐれさま〰️!待ってたんたよ!遊んでくれよ!遊んで!」


【子供2】

時雨しぐれさま、見てみて!駒をつくったんだぁ!お正月になったら、一緒に遊んでくれよ!」


【子供3】

「いやいや、俺のも見てよ!この羽子板で遊ぼう!時雨しぐれさま!」



時雨しぐれ

「おおおー!皆すごいじゃないか!明日、皆で遊ぼうね。」



 すると子供達は、とても残酷そうな顔をする。


泡沫うたかた

「やれやれ、時雨しぐれは、子供にモテるな。」


 泡沫うたかたが呟くと、氷雨ひさめは不満そうに言う。


氷雨ひさめ

「ちぇっちぇ!なんで時雨しぐればっかり子供にモテるんだよ。」


 氷雨ひさめは頬を膨らませた。


【ホタル】

「まぁまぁ、遊んでくれるお兄ちゃんというのは、子供にモテるのよ。」


氷雨ひさめ

「なんだよ!俺だって、遊んであげてるだろう?」


【ホタル】

氷雨ひさめ様の場合は、そうね・・・一緒に仲良く遊んでるわよね!」


 ホタルは、苦笑いをした。


氷雨ひさめ

「なんだよー。ホタル、どういうことだ?なぁー師匠!俺だって良いお兄ちゃんなんだぜ?こいつらは、ほんっと、見る目ねぇーよな!」


 氷雨ひさめは、泡沫うたかたに訴える。


泡沫うたかた

「まぁ・・・ガキにガキの世話は、できないからしょうがないんじゃないのか?」


氷雨ひさめ

「師匠まで、そう言うのかー!もー!!!」


 その後、時雨しぐれ氷雨ひさめ泡沫うたかた、ホタルの四人は本家へと帰った。


五月雨さみだれ

「皆、よく帰って来てくれた。氷雨ひさめ時雨しぐれ、少し見ない間にたくましくなったな。泡沫うたかた、お前の教え方が良いのだろうな。礼を言おう。そして、帰ってきてそうそうで悪いのだが、今はこの屋敷は年末の大掃除中だ。時雨しぐれ氷雨ひさめ、ホタルお前達も掃除を手伝っておいで。そうだな。まだ倉の掃除をしていないから、お前達は倉を頼む。泡沫うたかた、悪いがお前も行ってくれ。今日中に、屋敷の掃除を終わらせたい。」


泡沫うたかた

「御意。」


 四人は、倉庫へと向かった。倉庫の中は、長らく使われていなかったのか、保管されて物はホコリを被っていた。それぞれがホウキや、雑巾がけをして行く中、泡沫うたかたは棚から落ちた巻物を手にする。


時雨しぐれ

「あ、それ。ホタルの先祖が書いたとされる予言の巻物とその中に一緒に包まれてるのがうちの家系図なんですよ。」


泡沫うたかた

「予言の巻物と家系図?」


 泡沫うたかたは、その巻物をそっと開く。


時雨しぐれ

「師匠、この巻物と家系図の裏に書かれていること、なんて書いてあるか分かりますか?ワタシ達は、それ、読めないんですよ。父上や母上に聞いても、教えてくれなくて・・・」


 泡沫うたかたは巻物を広げると東家家系図が書かれた紙が一緒に巻物と共に包まれていた。落としそうになった家系図を持ち直し、裏を見ると、何やら書いてある。泡沫うたかたは、東家の家系図と巻物を交互に見ていたが、暫くして泡沫うたかたは何やら黙って考え込み、しばらくすると、突然、何かに驚いたような顔をしそして、すぐに深刻そうな、厳しいようなそんな顔をした。普段、あまり感情を表に出さない泡沫うたかたのコロコロと変わる表情を見て、時雨しぐれは不安になる。



<i523248|34716>

https://34716.mitemin.net/i523248/


泡沫うたかた

「・・・。」


時雨しぐれ

「師・・・匠??」


 時雨しぐれは、恐る恐る泡沫うたかたを呼ぶ。時雨しぐれの問いかけに泡沫うたかたは、はっと、我に返ったように時雨しぐれを見ると、いつもように、感情のこもらない表情に戻る。


泡沫うたかた

「・・・。ずいぶんと古い字で書かれているから、俺にも分からんな。」


時雨しぐれ

「そう・・・ですか。」



 泡沫うたかたが何かを隠したことは十中八九確かだろう。しかし、「分からない」と言っている泡沫うたかた

これ以上聞くのは気が引けた。何か、隠さなければいけないような内容が書いてあったのだろうか?時雨しぐれは良いようのない不安に襲われたがが、それでも時雨しぐれは結局、泡沫うたかたにそれ以上のことを聞くことは無かった。


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