第19話【年の暮れ】

それから数日後、時雨しぐれの体調は、すっかり回復した。時雨しぐれの体調が回復すると、泡沫うたかたは、時雨しぐれ氷雨ひさめに別々の修行をさせ始めた。雪降る真冬の大月山おおつきやまで、体力がある氷雨ひさめには、繊細な刀や飛び道具の扱い方を教え、なんでも器用にこなすが体力がない時雨しぐれには雪の山中を10㎏の荷物を背負って走らせるなどの体力をつけるような修行をさせる。


 そして、そんな練習暫く続いた12月の暮れの朝。


時雨しぐれ

「師匠、今日は、何をしましょうか?」


泡沫うたかた

「そうだな。氷雨ひさめ、今日はこの小屋の掃除を頼む。それと、時雨しぐれ、お前は竹と、松の葉を、それとひいらぎを取ってこい。門松を作る。」


時雨しぐれ

「門松?あぁ、もうそんな時期ですか、、、。」


氷雨ひさめ

「もし年の暮れか。俺たちがこの小屋に来てからもう、1ヶ月以上経つのかぁ~早いなぁ~。」


泡沫うたかた

「明日、村に一度帰るぞ。小波に手紙で明日帰るともうすでに伝えてある。」


時雨しぐれ

「正月か。楽しみだ。」


氷雨ひさめ

時雨しぐれ、お前は何が一番楽しみだ?」


時雨しぐれ

「そりゃあーもちろん、村人全員でやる餅つきかな。餅つきは子供達が喜ぶし、今年もワタシと兄上で餅をつく係をしよう。」


氷雨ひさめ

「よっしょあ!今年も沢山つくぞ!そう言えば、今年は、ホタルも舞を踊るのか?」


時雨しぐれ

「あ、そうだね。ホタルも12才だから、今年は踊るはずだね。」


泡沫うたかたが不思議そうな顔をする。


時雨しぐれ

「あ、東の村では、新年に銀青竜様に一年間の感謝と村の豊富を願う舞を12才から17才の女の人が踊るんですよ。」


泡沫うたかた

「なるほど。東の村の伝統の舞躍りってわけだな。」


氷雨ひさめ

「楽しみだぜ~。ホタルが綺麗に化粧して、錦絵にしきえから出てきたみたいな上品な着物きて、きっと、すっげーキレ、、ィ、。」


 時雨しぐれがニコニコと微笑んで、泡沫うたかたはどこか冷めた目で氷雨ひさめのことを見る。暫くの沈黙の後、ゴホンと一つ咳払をし、泡沫うたかたは言った。


泡沫うたかた

「、、、っさ、お前ら、早く仕事に取りかれ!」


 時雨しぐれは歯切れよく返事をすると、材料を集めに外へと出ようとする。泡沫うたかたもそれに続いて、外に出ようとするが、氷雨ひさめに呼び止められる。


氷雨ひさめ

「いや!違うんだぜ、師匠、時雨しぐれ!ほら、ホタルは、ずっと小さい頃から一緒に育ったから、兄妹みたいって言うか、ほら、だからその、なんて言うか、別にそんな変な風に思ってないって言うか、、、。」


氷雨ひさめは顔を真っ赤にしながら時雨しぐれに二人に訴えるが、時雨しぐれは、はいはい。と少し笑いながら小屋を出ていき、泡沫うたかたは、全く動じない様子で。


泡沫うたかた

氷雨ひさめ。」


氷雨ひさめ

「はい!!!」


泡沫うたかた

「早く、掃除しろ。」


冷静な口調で言った。


氷雨ひさめ

「は、はい!!!!」


 氷雨ひさめは、慌てて倉庫へほうきを、取りに行くのだった。



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