第18話【時雨の風邪】

泡沫うたかた氷雨ひさめ時雨しぐれの三人は、あれから毎日修行の日々を送っていた。季節は完全に冬になり、雪も積もり始める。


小波さざなみ

「カァー!カァー!」


泡沫うたかた

「どうしたんだ?小波さざなみ。そんなに騒いで、、、。」


 カラスは、外で洗濯をしている泡沫うたかたの、側まで飛んで来て騒ぎ立て、小屋の裏口の方へと飛んでいく。カラスの後を追って裏口に行くと、井戸の前で倒れる一人の少年がいた。


小波さざなみ

時雨しぐれ!!!しっかりしろ!!どうしたんだ!!!」


シャリン、、、、。シャリン、、、、。錫杖しゃくじょうをつく音。暗い森の中、、、。真っ白な着物をきた誰かが歩いている、、、。あれは一体、、、、誰なんだろう?


 時雨しぐれは、ゆっくりと目を覚ます。布団の中にいて、額には濡れた手拭いが置かれていた。近くには、泡沫うたかた小波さざなみがいる。


時雨しぐれ

「師、、、匠、、、。」


泡沫うたかた

時雨しぐれ、お前は体が弱すぎだ。小波さざなみ、この手紙をホタルに届けて、風邪薬を貰ってきてくれ。」


小波さざなみ

「カァー!」


 小波さざなみは、泡沫うたかたの手紙を足で掴むと、東の村を目指して山奥の小屋から飛び立った。


時雨しぐれはゆっくり顔を泡沫うたかたの方に向けると言った。


時雨しぐれ

「師匠、、、。昔から、ワタシは、不思議な夢を見るんです。白い着物を来た誰かが、暗い山の中を歩いている夢、、、。一体これは、何を表しているのでしょうか、、、?何か、不吉なことでもこれから起ころうとしているのでしょうか、、、?」


 泡沫うたかたは、囲炉裏に炙る魚に棒を刺しながら言う。


泡沫うたかた

「・・・ただの夢だ。気にすることはない。それよりも、今は、早くその風邪を治すことだ。」


 すると、勢いよく、小屋の扉が開らかれ、氷雨ひさめが入って来た。


氷雨ひさめ

時雨しぐれ!見ろ!粋の良い鴨だ!今さっき捕まえて来た!今日は、鴨鍋にしよーぜ!」


氷雨ひさめは鴨鍋の準備をし始める。



時雨しぐれ

「兄上、、、。ありがとう。でも、小波さざなみには見せないようにね・・・。」


しかし、そこへ小波さざなみが帰って来た。氷雨ひさめはあわてて鴨も自分の背中に隠した。小波さざなみの手には、ホタルが作ったと思われる薬が竹の皮に包まれていた。


小波さざなみ

「カァー!」


時雨しぐれ

小波さざなみ、ありがとう、、、。そうか、ホタルが心配していたんだな。本当に、心配させてしまって申し訳ない・・・。」


氷雨ひさめ

「ホタルは心配性だからな。早く良くなって、手紙を送らないとな。」


時雨しぐれ

「あぁ、、、。」


泡沫うたかた

「俺は、鍋の支度をしてくるから、氷雨ひさめ時雨しぐれに薬を飲ませたり、手拭いを取り替えてやっててくれ。」


氷雨ひさめ

「はい!えぇーと、、、なになに?」


 氷雨ひさめは薬と共に書かれた竹の皮に書かれた説明を読む。


氷雨ひさめ

「えぇーと、、、。まずは、この薬の粉を水にといてと、、、。ほら、出来たぞ時雨しぐれ!」


 時雨しぐれは起き上がる。


時雨しぐれ

「すまない。兄上。ありがとう。・・・。・・・。」


時雨しぐれはその薬を飲むと顔面が真っ青になる。


氷雨ひさめ

「うん?注意書がある。この薬は、とっても苦いから、ハチ蜜を入れて飲むようにしてね。ホタルより。」


氷雨ひさめ

「だってよ、時雨しぐれ。大丈夫か?」


時雨しぐれ

「ゴホッゴホッ、ゴホッ・・・大丈夫じゃなもんか。ゴホッゴホッゴホッ、ゲホッ、、、。なんて、苦いんだ!!!」


小波さざなみ

「カァー!!!!」


時雨しぐれ

「あぁ、ありがとう。小波さざなみ。もう大丈夫だ。」


 時雨しぐれは横になると、小波さざなみは、時雨しぐれの頭の隣でスヤスヤと寝てしまう。それから暫くして、


泡沫うたかた

「お前ら!鍋が出来たぞ!!」


氷雨ひさめ

「おおおー!うまそう!!時雨しぐれ、お前も食べてみろよ!」


時雨しぐれ

「んー・・・。味が分からない、、、、。さっきの間違った薬の飲み方をしたせいで、舌が麻痺してるんだ・・・。こんな、美味しそうなご飯なのに・・・。兄上、覚えてろよ?」


時雨しぐれは、ムッとしたように氷雨ひさめを見る。


氷雨ひさめ

「わ・・・悪かったよ。」


泡沫うたかた

「お前ら、何があったんだ?」


薬の飲み方の説明書は、必ず読もうと決意した二人だった。

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