【第5章】大月山での修行

第17話【冬の大月山へ】 

泡沫うたかたの傷が癒えるのを待ってから、|五月雨は、東の里を囲む山のうちの一つ、大月山おおつきやまで修行を始めるようにと言った。


 五月雨の話によれば、昔、東の里に来た甲賀の忍びが五月雨と東十朗とうじゅうろうに気術を教えるのに使った小屋があるとのことだった。


 泡沫うたかた時雨しぐれ氷雨ひさめの三人は、大月山にある小屋へと先に向かった。一平とネネが清流の村からやって来る前に、先にその小屋の下見をし、修行ができる状態に小屋を修繕し、敷地も整えることが目的だった。


 |小波を使ってその旨を手紙に書き、清流の里まで届けさせると、年が明けたら、本流の村に行くことができそうだとのことだった。


 季節は、初雪が降る寸前のある日のこと、小屋の修繕と、敷地を修行ができる状態に整えた時雨しぐれ氷雨ひさめの二人は、一平、ネネ、ホタルの三人よりも、一足早く、泡沫うたかたに修行をつけ初めてもらっていた。


泡沫うたかた

「いいか。時雨しぐれ氷雨ひさめ。この竹の筒の上に片足で立て。」


泡沫うたかたは、クナイを一つずつ氷雨ひさめ時雨しぐれに渡し、二人を竹筒の上に片足で立たせる。


泡沫うたかた

「いいか。忍びが使う術は二つ。忍術と忍法だ!そして、今からお前達がこれから学ぶのは、気術を基に作られた忍びの術・・・忍術、ではなく、気を一切使わない忍法だ。」


氷雨ひさめ

「え!なんで?父ちゃん達は俺たちに気術を学ぶようにって言ったんだぜ?気術を基に作られた忍術を学ぶなら分かるけど、忍法は、俺達の里の伝統剣術と同じで、気術はまったく用いてないんだろう?」


泡沫うたかた

「教えるさ、その時が来たらな。いいか、お前達。そもそも、気術とは、この世の中にある様々な気を状況に合わせて使いわけ、人間が人間の力を越えた能力を発揮し戦う術のこと。それを忍びが使えば、忍術と呼ばれ、侍が使えば、実践剣術と呼ばれる。しかし、その気術の根本は何も変わらない。簡単に人を殺すことの出来る究極殺人術。その究極殺人術を忍法ののイロハも知らない子供が知ればどうなるか・・・。


 泡沫うたかたは、30メートルほど離れた木にくくりつけられている的に手裏剣を投げる。まっすぐに飛んだ手裏剣は綺麗に的の真ん中にはまる。


泡沫うたかた

「今のは、気を使わないで投げた手裏剣、そして・・・。」


 泡沫うたかたは、もう一度手裏剣を投げる。すると先ほどの手裏剣とは比べものにならない速度で放たれた手裏剣は、的の真ん中に当たったかと思うと、一瞬のうちに的を粉々にした。


時雨しぐれ

「す、、、。すごい!」


氷雨ひさめ

「スゲー!!!!スゲー!!破壊力!半端ねぇー!」


泡沫うたかた

「そう、すごい威力だ。ただ単に、手裏剣を投げるのと、気を使って投げた手裏剣では、これほどに威力に差が出る。ま、今のは、これは忍術のごくごく一部に過ぎないがな。」


氷雨ひさめ

「えーーーーー!なんでだよ師匠!俺も早く気を使えるようになりたいぜ!」



泡沫うたかた

「愚か者が!!!!」

泡沫うたかたの大声に氷雨ひさめは驚く。


泡沫うたかた

「今のを見て、何も感じ無かったのか。」



時雨しぐれ

「まともに手裏剣も投げれない者が、気を使って投げたら、あの威力で、的の定まらない手裏剣。どこ飛んで行くか分からない殺人ミサイルと変わりない。敵味方関係なく殺す無差別殺人事件が起こってしまう・・・。」


 氷雨ひさめは、時雨しぐれの言葉を聞いて、ごくりと生唾なまつばを飲み込む。



泡沫うたかた

「そーゆーわけだ。しばらくは、忍法の習得に勤めてもらう。つまり、体作りと忍具を扱う技術をあげるんだ。俺が今からお前達目がけて、石を投げるから、その竹筒から落ちないようにして、クナイで全部弾き返しな。あ、早く落ちた方は腕立て500回。」




氷雨ひさめ

「ご、500回?ぜってぇ負けねぇーぞ!時雨しぐれ!」


時雨しぐれ

「・・・う・・うん。」


 時雨しぐれは苦笑いをする。


泡沫うたかた

「よし。それじゃあ、行くぞ!」


 泡沫うたかたはすごい勢いで石を時雨しぐれ氷雨ひさめ目掛けて投げつける。


時雨しぐれ

「ふっ!それ!はっ!」 


 時雨しぐれは、なげつけられた石を見事にクナイで跳ね返していく。その一方で・・・


氷雨ひさめ

「ぐふっ!がはっ!うがっ!」


 氷雨ひさめは、全くクナイに石が当たらず体に石が直撃し、鈍い声が上がる。そして、何発目かが氷雨ひさめのお腹に直撃した時、氷雨ひさめは、筒から落ちてしまった。


泡沫うたかた

「はい。氷雨ひさめ、腕立て500回。」


氷雨ひさめ

「あぁーーーーーもう!!!なんでだよ!」   


時雨しぐれ

「兄上。筒に乗った状態で足元を見てはダメだ。遠くを見ると安定するよ。」


氷雨ひさめ

「遠くかぁ、、、。」


 そして、それから、何日がして。地面には何個もの長さがバラバラの竹筒が地面からつき出している。そして、氷雨ひさめ時雨しぐれはその竹筒の一つに乗り、時雨しぐれと、氷雨ひさめはお互いに木刀を持って向かい合っている。



泡沫うたかた

「いいか。竹筒の、上でだけで行動し、先に相手の背中に一撃食らわせた方の勝ち。そして、試合中に竹筒から落ち時点で、落ち方の負け。負けた方は、素振り1000回。よし、始め!」


 その掛け声と共に二人は、竹筒の上を跳ね動き木刀を交えながら、お互いに間合いをつめていく。


氷雨ひさめ

(くそ。剣の勝負では、時雨しぐれに勝てない。どうしたら・・・。まてよ?師匠は何も、木刀で一撃を入れろとは言っていなかった。そうか・・・。なるほど、時雨しぐれは、腕力がない・・・。取っ組み合いに持ち込めばこっちの勝ちだ・・・。)


 氷雨ひさめ時雨しぐれに向かって木刀を投げる。時雨しぐれは、まさか氷雨ひさめが木刀を捨てるとは思わなかったため、一瞬呆気あっけにとられる。


時雨しぐれ

「な!何!!!」


 よし!これは完全なる隙!一気に竹筒から落としてやる!


ウォオオオオオオオオオオオオオーーー!!!!


氷雨ひさめは、時雨しぐれに飛びかかった。


が、しかし・・・。


 時雨しぐれは、氷雨ひさめが自分につかみかかる寸前で身をひるがえし氷雨ひさめの肩を掴んで飛んだ。そして、丸空きになった氷雨ひさめの背中にキツい一発を木刀で食らわせたのだった。


泡沫うたかた

「ほほう、、、。」


 バタンッ!気がつくと、氷雨ひさめは、背中の痛みに悶絶もんぜつしながら、地面に突っ伏していた、



時雨しぐれ

「・・・ワタシの勝ちだね。兄上。」


氷雨ひさめ

「くっそーー!!!!」


泡沫うたかた

「勝負あり。二人ともよくやったな。氷雨ひさめ、中々良い手だったが、今の手は危険過ぎる。今みたいに、敵に避けられてしまった時に丸腰ではな。その先にあるのは死、それだけだ。よって氷雨ひさめ。腹筋1000回」


氷雨ひさめ

「ひぇーーー!!!!!」


時雨しぐれ

「し、師匠。1000回はちょっと、、、。今日は、朝から木刀の素振りを5000回、山の、中を駆け巡ること四時間。兄上も、もうヘトヘトです。代わりにワタシがやります。」。


氷雨ひさめ

「良いんだ。俺がやるよ。時雨しぐれ。俺が弱いから、お前に全然追い付けないから、、、、もっと鍛練が必要なんだよ、、、。」


しかし氷雨ひさめは、もうフラフラとして立っているのもやっとの様子だ。時雨しぐれは少し考えてから言う。


時雨しぐれ

「・・・。分かった。そしたら、500回ずつやろう。それで二人で1000回だ。」


泡沫うたかたは、やれやれといった様子で「好きにしろ」と言ったのだった。

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