第10話【毒と夢】

自分は斬られたはずだ。時雨しぐれはそう思った。しかし、斬られたはずの自身体は、毒のせいであろう気だるさがあるだけで痛みは全く無かった。代わりにドスンと大きな何かが倒れる音がした。


【???】

「やれやれ、お前、どうしたの?」



 時雨しぐれはゆっくり目を開ける。


一平いっぺい

「バーカ!こんなやつに何、ビビってんだよ?いつものお前なら、こんなやつ片手で倒してるだろう?」


時雨しぐれ

一平いっぺい?なんで・・・ここに?」


 見ると、木刀を持った一平いっぺいが伸びて泡を吹いている山賊の腹の上にひょいっと乗っかている。そこへ、誰かが走って来る。


氷雨ひさめ

「ホタル、時雨しぐれ!大丈夫か!?」


小波さざなみ

「カァー!!!」


 カラスの鳴く声がする。あぁ、そうか。助かったんだとそう思った。もう、危険はない。誰も死なない。そう思った途端、時雨しぐれの意識は再び真っ暗な闇の中に吸い込まれていってしまった。


一平いっぺい

「お、おい!時雨しぐれ?どうした!」


【ホタル】

時雨しぐれ様!」


氷雨ひさめ

「しっかりしろ!時雨しぐれ!しっかりするんだ。」


<i518791|34716>

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・・・・・夢を見た。不思議な夢。シャリン・・・、シャリン・・・シャリン・・・、シャリン・・・、錫杖しゃくじょうをつく音。真っ白な白い着物をまとった若い男が真っ暗な森の中をゆっくりと歩いている。その男が歩く度に真っ白な白の着物が美しく舞う・・・不思議な夢だ。


 ここは、ホタルの家の一間。


【ホタル】

「ボタンおばあ様。あるだけの解毒薬を持って参りました。」


【ボタン】

「どれどれ、診てみよう。」

ボタンは、布団に寝かした時雨しぐれの容態を確認する。


【ボタン】

「こ、これは!ホタル時雨しぐれは体調のことをなんて言っていた?」


【ホタル】

「は、はい・・・。めまいと吐き気それと、震えが止まらないと・・・それに、熱まであるようで・・・。」


【ボタン】

「残念じゃが、ここにある解毒剤はどれも時雨しぐれには効かぬ。」


【ホタル】

「そ、そんな・・・!うぅ、時雨しぐれさまー!!!!!死んではダメ!いやーーーーー!さ!あぁーーーーーー!うぅ。」


 ホタルは時雨しぐれの布団に顔をうずめて泣く。



氷雨ひさめ

「バカ!オレを置いていくなんて・・・、!バカ!!!時雨しぐれのばか野郎!オレを助けるんじゃなかったのかよ!ふざけんな!お前なんて、一生許さないからな!うぅ・・・くっ・・・。」


 氷雨ひさめもまた、自分の服の袖に顔を埋める。そんな中、単調な口調でホタル祖母、ボタンは言う。


【ボタン】

「そう。どの解毒剤も時雨しぐれには効かぬ・・・。なぜなら・・・。」


【ホタル】

「うぅ・・・なぜ・・・ヒック、、なら?」


氷雨ひさめ

「・・・、くっ・・・なぜ、、なら?」


【ボタン】

時雨しぐれは、毒におかされてなどおらぬ。ただの風邪じゃ。」




 えっ!?!????!?!?!!?





 あまりの衝撃発言に一瞬その場の時が止まる。


【ホタル】

「ででででも!時雨しぐれ様は毒矢に刺されたんじゃ!?だって、傷口だって紫色に変色して・・・。」


【ボタン】

「これは、ただの青あざじゃ矢が刺さった衝撃で内出血したのじゃろう。じゃあ・・・めまいに吐き気、震えなんてのは、典型的な風邪の症状じゃ。二、三日も寝ていれば治るじゃろう。」


【ボタン】

「おきく、風邪薬を持ってきてくれんかのう?」


きく

「はい。かしこました。」


 ボタンは、雪嶺家に仕える女中、花園菊きく《はなぞのきく》に風邪薬を持って来るように言う。


時雨しぐれ

「・・・兄上・・・。また泣いてるのか?昨日、泣かないって誓ったばかりだろう?・・・それじゃあ・・・三日坊主にもならないよ?」


 目を覚ました時雨しぐれ氷雨ひさめを見て疲れた笑を浮かべながら言う。


氷雨ひさめ

「こ、これは、涙なんかじゃねぇーよ!お前運んでくる時に、天泣様が、雨を降らせて、そ、その雨が目に入って流れてるだけだ・・・。」


 氷雨ひさめはゴシゴシと、目こすったのだった。


時雨しぐれ

「全く、兄上は、しょうがないな・・・。本当に・・・。」


 

 熱にうなされて、時雨しぐれはふたたび目を閉じた・・・。















 どれくらい時間が経っただろうか・・・。近くで鳥の鳴き声が聞こえる。そしてその鳴き声は、だんだんと大きくなっていく、そして・・・


時雨しぐれ

「う、うるさいっ!」


 時雨しぐれは、目を開ける。すると顔の横、耳元で小波さざなみがカァーカァー鳴きながら跳び跳ねていた。


時雨しぐれ

「・・・小波さざなみ?」


 意識ははっきりしてきたもののまだまだ起き上がろうと思えるほど、体は元気ではなくただただ、気だるく重い体に戸惑う。しかし、ふと、自分の横を見ると体が重いのは自分の体調のせいだけではなかったことに気づく。


 近くで鳥の鳴き声が聞こえる。そしてその鳴き声は、だんだんと大きくなっていく、そして・・・


時雨しぐれ

「うるさい!」


 時雨しぐれは、目を開ける。すると顔の横、耳元で小波さざなみがカァーカァー鳴きながら跳び跳ねていた。


時雨しぐれ

「・・・小波さざなみ?」


 意識ははっきりしてきたもののまだまだ起き上がろうと思えるほど、体は元気ではなくただただ、気だるく重い体に戸惑う。しかし、ふと、自分の横を見ると体が重いのは自分の体調のせいだけではなかったことに気づく。


時雨しぐれ

「二人とも・・・。」


 氷雨ひさめとホタルは自分のかたわらで寝息を立てて眠っていた。


小波さざなみ

「カァーカァー!」


時雨しぐれ

「・・・そうか。ワタシは皆にたくさん心配をかけてしまったんだね。小波さざなみ、お前にも手間をかけさせたな。」


小波さざなみ

「カァー!」


時雨しぐれ

「・・・ありがとう。・・・。二人とも、、。ありがとう。だけど・・・。お、重い・・・。」


 時雨しぐれがもそもそ布団から起き上がろうとする気配を感じて氷雨ひさめとホタルは目を覚ます。


氷雨ひさめ

時雨しぐれ・・・。」


時雨しぐれ

「おはよう・・・。兄上。」


【ホタル】

時雨しぐれ様・・・。」



氷雨ひさめ

時雨しぐれ・・・。」


時雨しぐれ

「なんだい?兄上。」


氷雨ひさめ

時雨しぐれ・・・。」


時雨しぐれ

「だから、なんだい?兄上。」


 すると氷雨ひさめは下を向いてプルプルと肩を揺らす。そして、


氷雨ひさめ

「テメェーコノヤロウ!何、くたばりかけてんだよ!それでも、オレの弟かよ!?くそっ。お前は貧弱すぎるんだ。オレが鍛え直してやる!ほら、立て!外に出るんだ!」


 そう言うと、氷雨ひさめ時雨しぐれの布団をがそうとする。


時雨しぐれ

「ちょっ!兄上!無理を言わないでくれ。ワタシは


 病み上がりなんだ・・・。体もまだダルいし・・・。


氷雨ひさめ

「そんなこと、知ったことか!」


 氷雨ひさめは、なおも時雨しぐれの布団を強引に剥ぎ取ろうとする。


時雨しぐれ

「だから・・・ワタシは病み上がりだと言っているんだよ!」


 そう言うと、時雨しぐれは自分の枕を氷雨ひさめにめがけて投げつける。


氷雨ひさめ

「ぐはっ!!!!」


 その枕は真っ直ぐに氷雨ひさめの顔面に直撃し、氷雨ひさめはそのまま後ろにひっくり返る。


【ホタル】

「おぉー!すごーい!」


時雨しぐれ

「まったく・・・。もう。少しは休ませてくれ。」


 しかし、氷雨ひさめはそんな時雨しぐれの言葉など全く聞かずムクッと起き上がる。


氷雨ひさめ

「・・・ふふふふ。兄に向かって枕を投げつけるとは・・・。100年早いわ!」


 そう言うと氷雨ひさめは、時雨しぐれに飛びかかり、そして時雨しぐれがそれに応戦する。そんな二人のじゃれあいをホタルはほほえましく思ったのだった。




・・・・・・そして、その夜・・・・・・、





氷雨ひさめ

「なんで、こうなるんだよ!ぅ、う"ぉえーーー。」


 氷雨ひさめは近くのタライにお腹の中の物を戻す。


【ホタル】

「あ、頭が痛いわ・・・。」


時雨しぐれ

「ふ、二人ともごめんね。ワタシの風邪が、移っちゃったね。」


 時雨しぐれは、二人の頭に水で濡らしたタオルを置きながら言う。


氷雨ひさめ

「良いんだ・・・。お前が、元気になったんだったら・・・、。う"ぉーえーーー!」


【ホタル】

「はい・・・。すぐに治るから。気にしないで。」


時雨しぐれ

「二人とも、ありがとう。」


氷雨ひさめ

「これじゃあ、どっちが看病してたんだが、分からないな。ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ・・・・」


時雨しぐれ

「兄上なんだか、死にかけたカエルみたいだ。」


氷雨ひさめ

「お、お前・・・。体調の悪い兄にな・・・なんてこと言うんだ。ゲプッ・・・。」


時雨しぐれ】 

「あ、ごめん。」


 そう言うとホタルは笑った。ホタルが笑うのを見て、時雨しぐれ氷雨ひさめも笑う。カラスは三人幸せそうに鳴く。時雨しぐれは思った。これからもずっと三人でずっと過ごしていきたいと・・・。

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