第4話 日帰りの時間旅行
永瀬花梨は数少ない友人だ。
長い付き合いではあるものの、お互いに話していないことの方が多い。
多分、それは向こうも同じだと思う。
領域に踏み込まない程度の仲が続いているだけだ。
タイムトラベルの件に関しては、永瀬に限った話じゃない。
「話したら絶対に面倒なことになる」というだけで、誰にも話していない。
まさか過去に飛ばされるとは誰も思わないだろ。
大掛かりな仕掛けを作って、その時間が来るまできっちり待っていやがった。
未だに信じられないけど、スマホにある写真が証拠として残っている。
この写真がある以上、言い逃れはできない。あの場にいた人たちの中にカミカゼの関係者がいたとしたらと考えると、ゾッとする。
目的は分からない。だが、あれだけのことをやってのけたんだ。
何が何でも達成させるに決まっている。
「俺だって遊んでいたわけじゃないんですよ、別に。
アレは不可抗力というか、完全に巻き込まれただけですし。
あの、一生のお願いですから、誰にも言わないでください。
アンタ以外にちゃんと話してないんですから」
本当に誰にでも話せることでもない。
こういう流れになってしまった以上、話せることは話しておいた方がいい。
味方は多いに越したことはない。
「……そんなマジな話だったの?
何でそんな、京都行くノリで過去に飛べちゃったの?」
「ウン十年も前から仕組んでいたらしいですよ、あの人たち曰く」
「お前の交友関係どうなってんの?」
「知りませんよ、俺だってこうなるとは思ってなかったし」
「ちなみに、それっていつの話?」
「留学してた時のことです」
「その頃の話をしたがらないのは、そういうことがあったからか。
そりゃ、確かに話せないわな。分かった、俺も黙っとくよ」
「そうしてくれると本当に助かります」
自分のことが知れ渡ること以上に、恐ろしい話だ。
ただでさえ、よく分かっていないことが多いというのに、深堀りされたらたまったものじゃない。
今みたいに、変な連中に目をつけられることもある。
案外、朝陽が見られないのは俺の方なのかもしれない。
「けど、留学先でお世話になった人たちなんでしょ?
短い間とはいえ、同じ家で過ごしていた留学生相手にこんなことするかね」
「心当たりがあるから怖いって言ってるんです。
人間一人を問答無用で過去に飛ばすって時点で、倫理観もクソもないでしょ」
蓋を開けてしまえば、たった一人の未来を守るためだった。
過保護なんて生易しいものじゃない。ただの決意だ。
天井に備え付けられているシェルターの入り口が叩かれた。
扉の形が変わっても、この世界にもノックの概念があるのか。
八坂さんが立ち上がって、入り口をゆっくりと開ける。
扉の隙間から、先ほど彼に飛びついた少女が顔をのぞかせていた。
「あれ、どうしたの?」
「こんにちは。さっきはごめんなさい。
よくよく考えてみたら、おかしいなって思ったんです。
死んだ人がもどってきたって話も聞いたことなかったし。
だから、謝りに来たんです」
おお、わざわざ来てくれたのか。後ろを振り返り、上を指さした。
一旦、外に出て話を聞くつもりらしい。
改めて見ると、本当に何もない。舗装された道が広がっている。
この人と同じ顔をした人がこの世界で殺されたのか。
この世界、実はゲームじゃなくて、ウン百年後の現実世界なのだろうか。
VR専用の箱型メガネだったら、外の世界とすっぱり切り離される。
未来へ飛ばされたとしても、ゲームの舞台と言って言い逃れもできる。
きな臭いというか、本当にオカルト的な話になってきた。
ここまで凝っているのに、目的を知らせないのはなぜだろうか。
何を考えているのだろうか。
「さっき、ママが言ってたんです。
ドッペルゲンガーって言って、世の中には同じ顔の人が3人いるって!
だから、パパと同じ顔の人がいてもふしぎじゃないかもしれないって思ったんです」
「うっわ、嘘のつき方までそっくりとか……怖すぎるんだけど」
八坂さんは手に顔をやった。
どこまでも似ているから、恐怖しか感じないようだ。
少女は疑うことなく、純粋に信じている。
「いろいろ混ざってんだよなあ、その話も。
まあ、いいや。俺、記憶喪失だし」
投げやり気味に呟いた。
その設定はあくまで忠実に従うのか。
「ねえ、パパってどんな人だったのかな?」
「ちょ、何聞いてるんですか!」
傷口を開いてどうするつもりだ。
「もしかしたら、何か思い出せることがあるかもしれないし。
顔が似てるってのも、ちょっと気になったんだよね」
興味本位で聞くことじゃない。
この人は抱えている爆弾を平気で踏みに行く。
地雷処理班か何かなのでないだろうか。
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