第3話 後ろの正面にある顔は?


鍵の奏団は、俺とこちらの世界にいるであろう永瀬花梨が組んでいるらしい。

団体というのは、あくまで葬儀屋を名乗っているからだ。

音楽活動を主体にしているわけじゃない。


こっちの俺のほうがよっぽどしっかりしている気がするのは、なぜだろう。

所詮は同じ顔の別人ということか。


「霧崎君と俺の扱いの差、ひどくない? 人のことを何だと思ってんだろ」


八坂さんの引き立て役どころか、恥をかくつもりで来たんだけどな。

この厚遇は予想外だった。奇跡を起こしてみせた魔法使いか。

葬儀屋とはいえ、音楽にまったく疎いわけじゃない。通ずるところはある。


ただ、俺のどこを見て、そのイメージに繋がったんだろう。

自分で言うのもアレだが、そこまで暗いオーラを出しているつもりはない。


「カミカゼ、でしたっけ。そんなに有名なんですか?」


「いや、そうでもないと思うよ。規模もそんなに大きくないし。

何だかんだ言ってるけど、要は中小企業だし。

けど、FoFが着実に広まっていったのはデカかったと思う。

実際おもしろいよ、あのゲーム」


ふっと真顔になった。

ネットによる口コミに勝るものはないということか。

ランキングなどの評価を見る限り、そこそこ高い方だった。


「結局、どんなゲームなんですか。それ」


「愚者のゼロが世界を旅してカードを集めるゲーム。

タロットカードを元ネタにしたストーリーってところかな。

自分が何者かってのを見つめ直す、みたいな?

全体的にゆるい雰囲気だったし、そんなに難易度も高くない。

頭を使いたくないときとか、ぼーっとしたいときにはよかったかな」


なるほど、目の付け所はおもしろいな。

複雑な設定もなく、のんびり楽しめるゲームということか。

哲学的な問いも含まれているし、好きな人は好きなのだろう。


「で、このゲームがそれの続編ですけど。こんな感じなんですか?」


八坂さんは天を仰いで、のけぞり返った。


「こんなひどいわけないじゃんよ~。

信じられないかもしれないけど、人類を抹殺するような終末世界じゃないんだって。

俺なんて続編って聞いたときさ、VR向けにグラフィックが綺麗になったのかなくらいにしか思ってなかったし」


メインで呼ばれたこの人ですら、続編をあまり期待していなかった。

なかなかどうして、めずらしい状況だ。


「無印版ですべてが完結していたからねー。原点にして頂点、いい言葉だよね」


別作品で補完するべきこともない。ゲームがすべてを語り、完結している。

考察の余地すら与えないということか。

それなら、続編が出ると聞いてもあまり期待はしないかもしれない。


「ただねー、この会社、どうもきな臭いところあってさ。

どこぞのカルト教団と繋がりがあって、売り上げ金をそこに寄付してるとかさ。

アンチなのかは分からないけど、そういうコメントを結構見かけたんだよな」


しれっと地雷が潜んでいやがった。

その話が本当であれば、とんでもない企業じゃないか。

ベンチャー企業という比較的新しい企業体制も、隠れ蓑にはうってつけだ。


この放送をしている関係者全員、そのカルト教団の関係者という可能性もある。


「もしかしなくても、俺たち今、宗教勧誘されてる……?」


「霧崎君、奇跡を起こした魔法使いで葬儀屋だしね。

俺も勝手に殺された死人だし、その線はあり得るかもね」


不謹慎極まりないというか、ブラックジョークもいいところだ。

これで神様を名乗る謎の人物が出てきたら、笑うしかない。


「そういえば、マリナさんから聞いたよ。

霧崎君、六十年前から来たタイムトラベラーなんだって?」


「何でその話を掘り返すんですか」


ゲリラ豪雨の中、傘もささずに立っていた彼女に声をかけた。

この業界に来てほしかったがために、適当に噓をついてみただけだ。

戯言程度にそこまでツッコむことなのだろうか。


「タイムスリップなんて、魔法でも使わないと絶対に実現できないしさ。

もし、って思っただけ」


「俺がこの場に呼ばれた理由が、カルト教団とやらの信仰対象にふさわしいと思われたからってことですか?」


一瞬、沈黙が下りる。


「まあ、そういうことはしないと思いたいけどね。さすがに弁えてるだろし」


あくまでも希望か。中継している以上、この会話も筒抜けだ。

視聴者に変な影響を与えかねない。


「それに、誰も得しないような嘘は自分から絶対言わないでしょ?

それ考えると、マリナさんに言ったことは嘘でもないんじゃないかなって」


普段おちゃらけているだけに、鋭い意見を思いついたときのこの人に敵はいない。

それがあながち嘘でもなかった場合、本当に心臓に悪い。

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