連行
「何だ何だ?」
突然入って来たものものしい様子の兵士たちを見てお客さんは騒然とします。人数は全部で十人ほどもいるでしょうか。平和な店内はあっという間に物騒な雰囲気に変わってしまいます。
やがて兵士のリーダーと思われる男が私に剣を突き付けて言いました。
「セシリア! お前はクロードと直前に会っていたらしいな! よってお前をクロード服毒事件の参考人として連行する!」
「え……」
突然のことに私は思わず絶句してしまいます。
参考人と言ってはいますが、明らかに容疑者扱いです。とはいえ、一度私はクロードに毒を盛ったことになっている以上、クロードに毒が盛られたとすれば私が疑われるのは無理もない上、クロードと直前に会っているという事実もあります。
一方、
「え、セシリア!?」
「この方があの元婚約者なのか!?」
衛兵たちの言葉に周囲の客やサリーにも動揺が走りました。
皆、まさか自分たちが薬を買っていた相手がまさか毒殺未遂の容疑者とは思わないでしょう。
それに普通の店主のように振る舞っている私が貴族の出身という時点でにわかに信じられることではありません。
そんな中、すでに一度罪に問われたことがある私だけが唯一落ち着いていました。
基本的に貴族はよほどのことがない限り死罪にはなりません。話を聞く限りクロードはまだ生きているでしょうし、真犯人は他にいます。
それにエドモンド殿下やアディントン公爵、ライアン子爵など助けを求めれば私の弁護をしてくれそうな人物には心当たりが亜あります。
それならここは大人しく言うことを聞いて今度こそ真実をはっきりさせる時ではないでしょうか。
私はそう決意し、まずは動揺している客とサリーに正体を告げます。
「皆さん、黙っていてすみませんでした。実は私が前回毒を盛ったとして追放されたセシリアです」
「え……」
私の口からその言葉を聞いた客やサリーたちは驚きのあまり沈黙します。
「ですが、誓って言いますが私は犯人ではありません。前回も冤罪ですし、今回も私が犯人ということはありません。ですからこれから無実を証明してきます」
「……」
突然のことに周囲の人々は呆然と私を見つめるしかありません。いきなりこんな事実が明らかになっても何が本当かなど分かりようがないでしょう。
「よく貴族の方がいらっしゃると思ったのですが、そういうことだったのですね」
「はい、せっかくお店が軌道になってきたのにすみません」
せっかくお店のことを手伝ってもらっていたのに、こんなことになってしまって申し訳ないです。
「戻ってきてくれませんか?」
「出来る限り」
とはいえ、こればかりは私の意志でどうにかなることではないので確約は出来ません。
私の返事にサリーは寂しそうに目を伏せます。
が、やがて顔を上げると私を見つめて無理に笑顔を作って言ってくれました。
「……分かりました、どうかお元気で」
「はい、せっかく来てもらったのに毎回本当にすみません」
そして私たちのやりとりが終わるのを待っていたかのように兵士たちは私を取り囲みます。
「よし、ならばついてこい。大人しくついてくるなら罪が確定するまで危害は加えない」
「はい」
こうして私は衛兵たちに連れていかれて思わぬ形で王都へと戻るのでした。
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