弁護

 店から連れ出された私は衛兵たちが用意した馬車に乗せられ、左右に衛兵が座ります。女であるせいか拘束こそされませんでしたが、まるでもう罪が決まったかのような厳重さでした。


「本当にやったのか?」


 道中、一言だけ隣の兵士がつぶやきます。


「やっていません」


 私がそう答えると、それで会話は終了しました。兵士としても事件の真実を知っている訳ではないのでそれ以上話すこともないでしょう。

 とはいえ、心なしか彼の私に向ける視線は鋭さが弱まったような気がします。


 その後馬車は王都に向かいました。まさかこのような形で王都に戻ってくるとは。

 つくづく王都との縁は切れないようです。


 それから私は中心部にある衛兵の詰め所のようなところに連れていかれました。一応罪が確定していないためか、それとも元の身分が高いせいか、いわゆる牢獄のようなところではなく、質素な民家の一室のようなところでした。平民暮らしに慣れてしまったせいかそこまでの不満はありません。ただし逃亡防止のためか窓はなく、息苦しさは感じました。


「食事は朝夕二度出す。トイレに行きたければ人を呼ぶように」

「分かりました」


 そう告げて兵士は去っていきました。

 一人になった私はため息をつきます。特にひどい扱いを受けたり暴力を振るわれたりした訳ではないですが、何もない部屋に閉じ込められてしまうとすることがありません。せめて本でもあれば良かったのですが。


 そして何も出来ないまま数時間ほどぼーっとしていると、兵士がやってきて「夕飯だ」という短い言葉とともにパンとお茶を差し出してくれます。パンは少し硬くてまずくはないけどおいしくもありませんでした。


 やがて日が暮れたので仕方なく横になります。

 幸いすぐにどうこうされることはなさそうなので、気長に誰かが助けてくれるのを待つしかありません。そう思うといつも通りに眠気がやってくるのでした。




 翌朝、起きるとドアの前に置かれていたパンが置かれていました。

 いつも朝起きると朝ごはんの準備やお店の準備をしているのにやることが一切ないというのは気持ち悪いことです。

 そしてまたおいしくもまずくもないパンを食べてぼーっとしていると、急に足音がしたかと思うと衛兵がドアを開けます。


「セシリア・バナードよ。本当にクロード様に毒を盛っていないのだな?」

「はい、やっていません」

「実はおぬしを拘束した後に数人の者から弁護が入ったようで、おぬしに疑惑を晴らす機会を与えることになった」


 それを聞いて私は一安心した。やはりこのまま罪に問われるという訳ではなかったようです。


「疑惑を晴らすというのは?」

「現在クロード様は一命をとりとめたものの、苦しんでいる。それを治し、倒れた原因を特定することが出来れば無罪を認める」

「もちろん苦しんでいる方がいれば助けますが、原因を特定というのは……」


 おそらくクロードは毒を盛られている以上犯人を特定しなければならないということでしょうか。

 それはかなり大変そうです。


「迎えが来ているので詳しいことはそちらで聞くがいい。来い」

「はい」


 私は兵士の後について歩いていきます。

 何にせよ外に出してもらえればまだチャンスはあります。


「セシリア! 無事だったか!?」


 すると、建物の外で私を待っていてくださったのはエドモンド殿下でした。

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