憤慨するクロード

 その後適切な治療を受けたクロードは快気祝いのパーティーを開く。


 が、招待状を出したのにも関わらず、エリエの姿はパーティーにはなかった。最初に体調を崩したときはエリエは多少クロードのことを避けているという程度だったが、最近ははっきり遠ざけられているのではないかと感じてしまう。


 パーティーが終わった後クロードは一人自室で考える。

 一体なぜ自分はエリエに見捨てられてしまったのだろう。カールという男はこれまでクロードとエリエが仲良くしてきた年月を上回るほどの魅力がある人物なのだろうか。

 いや、そんな訳はない。エリエは自分がずっと体調を崩しているせいで愛想を尽かしてしまったのではないか。病気の男を看病してもエリエは何も楽しくない。それよりは健康な男とデートなりパーティーなりに行く方が楽しい。

 エリエは薄情なことにそう思ったのだろう。


 クロードは自分がエリエとともにセシリアを罠に嵌めるという薄情なことをしたことを棚に上げて激怒する。セシリアは自分が体調を崩したときにでも優しく介抱してくれた。

 一方のエリエは自分が体調を崩すとすぐに見捨ててしまった。しかも元はと言えばエリエが医者にかからないで欲しいとか訳の分からないことを言ってきたせいで体調は悪化した。


 そう思うとエリエへの怒りはどんどん激しくなっていく。


「くそ、こうなったらエリエとカールの浮気の証拠を掴んでやる」


 そもそもクロードとエリエは別に婚約した訳でもないので浮気ではないのだが、クロードにとってそんなことはどうでも良かった。

 すぐに家臣たちを呼ぶ。


「おい、エリエとカールの浮気の証拠を集めるんだ」

「浮気と言いますが……そもそもエリエ様はクロード様と婚約かそれに類する約束をなさっているのですか?」


 家臣の一人が遠慮がちに尋ねる。

 するとクロードはたちまち激昂した。

 一緒にセシリアに冤罪を着せたのは実質将来を誓い合ったも同然だ、などとはさすがに言えない。


「うるさい! そんなことはいいから僕の言うことを聞け!」

「は、はい」

「必ず証拠が残るようにするのだぞ」


 怒鳴りつけられた家臣たちは仕方なくエリエの尾行に向かう。

 彼らは何でこんなことをしなければならないのか、と内心不満だらけだったがそれでも一生懸命調査を進めた。そもそも風景を記録する技術もないのに確固たる証拠を手に入れるのはなかなか大変なことではあったが、それでも家臣たちはエリエがキンベル家に入っていく様子を見つけ、近くにいた平民を連れてきてその様子を無理やり目撃させるなど証拠作りに奮闘する。


 そして数日後。


「クロード様、エリエ様がカール様と密会したりキンベル家に入っていったところの証拠を押さえました」

「よくやった!」


 それを聞いてクロードは無邪気に喜ぶ。


「証拠というのはいつでも出せるものなのだろうな?」

「はい、複数の平民にその場面を目撃させております」


 自分たちの仕事もあるのにそんなことに動員された平民はいい迷惑だったが。


「よし、よくやった。褒美をやろう」


 そう言ってクロードは機嫌よく家臣たちに金貨を与える。

 本来の仕事よりもこんなしょうもないことを優先して褒美をもらっていいのかと思う家臣たちだったが、もらえるならいいかと思い退出していった。


「ふふ、エリエめ。この僕を見捨てて新しい男を選んだことを後悔させてやる!」


 そう言ってクロードは手紙を書き始めた。

 そこにはクロードを捨ててカールを選んだことに対する罵詈雑言から始まり、続いてすぐに謝らないなら二人の仲をばらしてやる、と書いた。


 とはいえクロードの心はすでにエリエから離れていた。今更謝ってきても復縁するつもりはないし、カールとエリエの交際を黙認する代わりに何かを要求しよう、などと脅迫めいたことを考えていた。


 もっとも、クロードが企んでいることはカールの企みに比べれば児戯に等しいものであったが、

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